立ち止まる秋 〜
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秋月 涼 |
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鼻から白い煙が立ちのぼる。昨日の雨の名残で、森に続く坂道は少しぬかるみ、赤や黄色や茶色の落ち葉は湿っていた。 濃灰色のハンチング帽子をかぶり、羊毛のマントを羽織った少年は、傾斜が緩くなった場所で立ち止まり、後ろを振り向く。 遠い都メラロールの方には低い山並みが連なり、そこに雲の大陸が重なっていた。雲の下側には水色の空が覗いていた。 「お前たちも、寒いんだろうな」 サミス村で暮らすドルケン少年の言葉は、切れ切れの白いもやとなって空の高みを目指したが、雲にはなれずに凛とした朝の底に溶けていった。少年の視線は山々に向けられていた。 山奥の村は緩やかな谷のような形状になっていたが、そこを朝霧が漂っていた。確かにそれは丘の吐息のように見えた。 ドルケン少年は一段と深く帽子をかぶり直し、それからきびすを返して静寂の村に背を向け、森の方に歩いてゆくのだった。 「帰ってくる頃には、いっぱいになってるはずだな」 まだ空っぽのマントのポケットを、彼は手で探って確かめた。 秋は立ち止まり、人も立ち止まる。 揺蕩う時、惑いは落ち葉となり、どこか遠くへ流れていった。 そしていつしか冬が吹いてくる――白く、厳然と、聖らかに。 人々は吹き荒ぶ風と雪に耐える。前へ前へと進みながら。 | ||
(了) | ||
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