(C)Ryo Akizuki
KeY: 心の中

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 夕食の席。

 椅子が一つ、空席になっている。

「お父さんは、いつごろ戻ってくる予定なの?」

 シェリアが訊ねた。母は言葉を濁す。

「遅くとも、今年の冬までには……」

「お父さん、遠くに行っちゃったの?

 おばあちゃんと、どっちが遠いの?」

 リンローナは心配そうな顔をした。

「おばあちゃんは、死んじゃったのよ」

 シェリアが言った。リンローナはさらに質問する。

「死ぬ、ってなあに?」

 母は何も言わず、静かにカップを傾け、お茶を飲み干した。

 テーブルに置かれたカップからは、まだ湯気が出ている。

「お父さんは遠くに行ったけど、ちゃんと帰ってくる。

 おばあちゃんには、もう会えないのよ」

 シェリアは懸命に説明したが、幼いリンローナにはなかなか理解できない。

「おばあちゃんには、もう会えないの?」

「……リンローナ、おばあちゃんを覚えてる?」

 突然、母が訊ねた。

「うん」

「だったら、おばあちゃんを思い浮かべてみて」

「……うん」

「おばあちゃんに会えたでしょ?」

「ほんとだ。おばあちゃんに会えたよ!」

 リンローナは大喜び。

 母は優しく語る。

「シェリアも、やってごらんなさい。

 おばあちゃんは、私たちが生きている限り、絶対に死なない。

 私たちの心の中で、生き続けているのだから」

「うん……おばあちゃん、あたしの中にも生きてる」

 シェリアが笑った。母は続ける。

「お父さんだって、同じよ。

 お父さんを思い出す度に、ちゃんと会えるわ」

 これからは女性三人の生活。何かと物騒だ。

「でも……お父さん、早く帰ってくるといいわね」

 母が付け加えると、姉妹は小さく頷いた。



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