(C)Ryo Akizuki
KeY: 空耳

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「えっ?」

 何か変だ。

 希望に燃えて走り始めてから、そう時間は経っていない。

「どうして、こんなことが……」

 遠くにあったはずの街の灯が今、リンローナの真下にある。

 わけがわからない。

 涙で濡れた目をこすり、自分の頬を軽く叩いてから、もう一度見つめる。

「……う〜ん。おかしいなあ」

 すぐに首をかしげる。

(森の奥には、想像もつかないような不思議な出会いが待っているのよ)

 母からよく聞かされたのを思い出す。

 その時だった。

[今夜は地震か? それとも熊か? いずれにしても、妙に揺れる]

 頭の中に、男性の高い声がこだまする。

「誰なの!」

 リンローナはとっさに叫び、左右を見回す。

 相変わらずの深い森。

 ひとすじ、黒い夜風がすり抜ける。

[巨人族か。こんな所に来るなんて、珍しいな……]

 再び響く、男の声。

「どういうこと?」

[こういうことさ]

 だが、声はすれども姿は見えず。

 リンローナは微笑んだ。

「……さっきから空耳がひどいなあ。あたし、疲れてるんだ、きっと」

[おい、そこのでかいの!]

「あはは、この声、面白い! あたし、こんなにちっちゃいのに」

 リンローナの身長は、十五歳の女の子としてはかなり低めなのだ。

[こっちを見ろ、こっちを]

「こっち?」

[お前の下だ!]

「下? ……あっ!」

 小人族!

 リンローナの手の平に乗ってしまいそうな大きさ。

 彼は腰に手を当て、不満げな表情でため息をつく。

[ふぁーあぁ。もっと早く気付けよ!]

 だが、リンローナは開口一番、

「かわい〜い!」

 ……小人クンが余計に気を悪くしたのは想像に難くない。



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