(C)Ryo Akizuki
KeY: 夏の水

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 再び始まった長い旅。

 時々、リンローナは宿屋の姉妹をなつかしく思い出す。

 事件も解決して休息中だった、出発の二日前のこと。

 リンローナたちは村のそばにある小さな池に出かけた。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「わあーっ、綺麗だね。水が本当に透き通ってる!」

 リンローナは嬉しそうに言った。

 夏の水は枝の緑を映して、かすかに揺れ動いている。

 そよ風の作る紋様が、水の上で踊るからだ。

「小魚がいるよ!」

 宿屋の姉妹、妹のシルキアが指さした。

「フェイルですよん」

 その姉のファルナはこう言った。



 ……ルーグとシェリアは池のほとりで話をし、

 ケレンスとタックは木陰で寝ころんでいる。

 池の様子を一生懸命に覗いているのは

 リンローナ・シルキア・ファルナの三人だけだった。



 小魚の一群を目で追う。

 ぴょこぴょこ……。

 水のやわらかな流れに逆らって泳ぐフェイルたちが

 なんとも愛らしい。

 リンローナがつぶやく。

「かわいいね」

「でも、あたしたちはフェイルを夕食に並べたりするんだよね」

 目が疲れたのか、シルキアは顔をあげた。

「……」

 ファルナは黙っている。

 みつばちの羽音が心地よく響いている、森の中。

「でもね、きっと、フェイルたちも満足していると思うよ」

 リンローナは笑った。シルキアがすかさず訊ねる。

「どうして?」

「だって、あたしたちに食べられたフェイルは、

 あたしたちのエネルギーとなって末永く生きられる」

「うん」

 口をつぐんでいたファルナが、静かに語りだす。

「ファルナたちは小さな命を食べて、暮らしているのだっ。

 普段は気がつかないけど……大事にしなきゃ、ですよん」

「そうだね」

 リンローナはゆっくりとうなずいた。



 そんなこんなで陽が傾き、夕暮れとなる。

「そろそろ帰りましょうか」

 タックが言い、みんなは村に向かって歩いていく。

 空はだんだん深い青に染まっていき、

 辺りは闇に沈んでゆく。

 見上げると満天の星。

 ……あの池も、そろそろ眠る頃かしら。



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Good swimmer!    ( 未 定 )

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