(C)Ryo Akizuki
KeY: 夜道

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「……懐かしいね」

「ああ。今ごろ、あいつら、どうしてるんだろう?」

 ケレンスが言った。

 酒場で飲んだ、帰り道。

 ケレンスとリンローナは並んで歩いていた。

 細い路地を流れる夜風は涼しい。

 サミス村から遠く離れた、とある街角で。

 ……どうしてこの話題が出てきたのかは忘れてしまったが、

 とにかく、二人はあの夏を思い出していた。

「きっと、元気にやっていると思うな。

 少なくとも、あたしはそう思う」

 リンローナが返事をした。

「俺も、そう思う」

 ケレンスがうなずいた。

 ……その時。

「きゃっ!」

 何かにつまづいたリンローナ。

 前のめりに倒れる。

「おっと」

 ケレンスが、とっさに横から手を出した。

 リンローナは、ケレンスの腕の中に吸い込まれる。

「よいしょっと」

 ケレンスは、腕に力を込め、

 リンローナの体勢を直してくれた。

 虚ろな目で立ち上がったリンローナ。

 左右に首を振る。

「ごめんね。あたし、まだ酔ってるみたい……」

「なんでワイン三杯で、こんなに酔っぱらうんだ?

 いつもながら、不思議な奴だな」

 そう言って、ケレンスはため息をついた。

 リンローナは、のんびりした声で訊ねる。

「あたし、不思議なのぉ?」

「ああ」

「そうなんだ。あたし、不思議なんだ?」

 リンローナはちょっと首をかしげ、

 その場に立ち止まったまま、しばらくぼんやりしていた。

 ケレンスは困った顔をする。

「おいおい。そんな所で立ち止まってないで、

 さっさと宿に帰ろうぜ。

 ルーグもシェリアもタックも、とっくに着いたはずだ」

「うん」

「俺は行くぞ」

 ケレンスはそう言うと、さっさと歩き出した。

 リンローナは、ふらつきながら、

 一生懸命ケレンスの後ろ姿を追った。

「ケレンス、待ってよぉ」

 ケレンスはちょっと先で止まり、後ろを振り返った。

「待ってやるから、早く来いよ」

「ありがとう」

 リンローナはようやく追いつく。

 それから二人はまた、並んで歩いた。

 夜道は暗くて、ひんやりしていたが、

 リンローナの心の中は、なんだか暖かかった。

「いつまで経っても、酔いが醒めないなぁ〜」

「気をつけろよ。飲み過ぎるな」

「はーい」

「連れ帰る俺の身にもなってくれよな。全く……」

「ごめんごめん」

「お前は危なっかしくて、見てらんないんだよ」

「うふふ……」

「笑っている余裕があったら、どんどん歩け!」

「ごめんね」

「謝っている暇があったら……」

「どんどん歩け、でしょ?」

「……先に言うな」

「もしかして、ケレンスも酔ってる?」

「ちょっとだけ……」

 ケレンスは気まずそうに、小さな声でささやいた。

「あたしと同じなんだー」

「そういうこと」

「じゃあ、ゆっくり帰ろうよ〜」

「そうだな」

 二人の後ろ姿が、少しずつ闇の中に溶け込んでいった。

 月は三日月。満天の星空が美しい、とても静かな夜だった。



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