(C)Ryo Akizuki
KeY: 足跡

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「気持ちいいね」

「ええ」

 リンローナとタックは、そう言って遠くを見つめる。

 ……あの森の向こうに、美しい高原があるのだ。

 リンローナはそれを思い出す。

「紫色の草が生い茂ってて。とっても綺麗だった」

「例の野原ですか?」

「うん。紫の高原」

「もう一度、行ってみたいですね。今度はゆっくりと」

 リンローナたちは数日前、村の賢者から冒険の依頼を受け、

 その高原へと向かった。

 ……一面の紫色の斜面を照らす夕日。

 心の奥に刻み込まれた風景。

「もう二度と見ることは出来ない、一瞬の美しさだよね」

「ええ。冒険をしていると、しばしばそういうものに出会いますね」

「町も、人も、花も、虫たちも……」

「時間は戻らない。だから、大切にしたいですね」

「うん!」

 リンローナは大きくうなずいた。

 その時、彼女のお腹がグゥーと鳴る。

「やだ……」

「もうそろそろ帰りませんか。

 朝食も出来あがっていることでしょうし」

「ごめんね。あたし、お腹すいちゃった」

「構いませんよ。行きましょう」

 タックが促す。

 そして、二人の姿は朝霧の中に消えていった。

 残ったのは、かすかな足跡だけ。



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