(そう、ケレンスのお母さんも……) リンローナは慌てて上体を起こす。 「ねえ、遊ぼ! シロツメクサで腕輪を作ろうよ」 つとめて明るく笑おうとしたが、横の少年は目をつぶってしまう。 「……」 立場が逆になり、困惑するリンローナ。 素直に謝る。 「ケレンス、ごめんね……」 「本当に嫌な質問だよな」 静かに瞳を開き、真っ青な空を見つめるケレンス。 「おふくろか。なつかしいな」 「ほんとにゴメン」 「いや。いいんだ」 二人の上を、さあっと微風が通り過ぎる。 リンローナも再び、草のベッドに身をまかせた。 わずかな沈黙のあと、ケレンスが言う。 「たまには思い出してやらないとな。おふくろにも悪いし」 「うん……そうかもね」 「忙しいと忘れちゃうもんな。アハハハ」 ケレンスは珍しく大声で笑ったが、どことなく虚しい響きを帯びていた。 草のやさしさと独特の匂いに包まれたこの場所。 リンローナは言う。 「あたし、時々思い出すんだ、お母さんのこと。 そうすると落ち込んじゃって……」 「分かる気がするぜ。 俺、リンやシェリアと同じ感覚を持ってる。 その一点に関してはな」 「二度と戻らない、お母さんのぬくもり」 「おふくろを失くした奴にしかわからねえだろうな、この気持ち」 「うん」 「きっと、な」 「きっと、ね」 「オーイ、そこのお二人さん、 邪魔して悪いですけど、そろそろ出発ですよー!」 冒険者仲間・タックの声がした。 「なんだよタックの奴。『邪魔して悪い』ってのはどういう意味だ?」 ケレンスは跳ね起き、向こうの木陰に走り去った。 「リン、お前も早く来いよ!」 その声や仕草は、普段のケレンスそのものだった。 「待って、今行くー!」 見上げると、ふわふわ雲の綿菓子ひとつ。 ……今日に限っては手が届きそうな気がした。
★STORYs-ルデリアの全体像

