「おかあさん、お空が燃えてるよ」

　美しい夕焼け。

　いつの間にか黄昏時だった。

　港の向こう、海のかなたに日が沈んでいく。

「きれい」

「おひさま、またダメだったんだね」

「え？　ダメだった？」

　母は驚いて、リンローナの大きな瞳を見つめる。

　ちっちゃなリンローナは胸を張った。

「かくれんぼ、だよ」

「かくれんぼ？」

「今日も、おひさまの負けだねっ！」

「？」

　母は首をかしげるが、その表情は穏やかだ。

「おひさまの負け、なの？」

　リンローナはうなずく。

「うん。空のかくれんぼ、いっつも、おひさまが鬼なの」

「ふうん」

「おひさまがいると、おつきさまやおほしさま、

　みんなみんな隠れちゃうでしょ？」

「あ、そうか！」

「おひさまが帰る頃になると、みんな出てくるんだぁ」

「うん、うん」

「ねえ、おかあさん」

「なあに？」

　リンローナは、母の手をぎゅっと握る。

「おかあさん、あったかい……」

「もう。甘えん坊なんだから」

「おひさまが帰るから、あたしもおうちに帰る！」

「そうね。そろそろ帰りましょうか」

「今日のお夕飯、なあに？」

「ひみつ！　でも、リンローナの大好物よ」

「なんだろう。楽しみだなあ」

　二人はすでに港から離れ、家の方角に向かっていた。

　リンローナはちょっと立ち止まり、

　深い青に染まってゆく〈あの空〉に呼びかける。

「おひさま、明日も頑張ってね！」