2001年11月


2001年11月の幻想断片です。

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気分   ×


 11月30日○ 

「今月は皆勤賞だねー」
 ルデリア世界でも有数の教育レベルを誇る〈モニモニ魔法学院〉が間近に見えてきた。当時、聖術科に通っていたリンローナは級友のナミリアに、さも嬉しそうな口調で語りかけた。霧月の末日、ちょっと涼しいが気持ちの良い朝だ。通りは落ち葉のじゅうたんである。
「ふふ〜ん、今月は頑張ったもんねっ」
 ナミリアは誇らしげに胸を張る。夏場は何となくダラダラしているうちに遅刻、冬場は布団から抜け出せなくて寝坊続きの彼女でも、暑くも寒くもない今ごろの季節は調子がいいようだった。
「今月だけは優等生のリン並みの出席状況だよね」
 足取りも軽く、白を基調とした制服の長いスカートをはためかせ、ナミリアは意気揚々という感じだった。一方、リンローナは微笑みを保ったまま、自分のことについてはやんわりと否定する。
「別にあたし、優等生じゃないよ〜」
「もう、そういうところが優等生なんだってばぁ!」
 相手の肩をぽんぽん叩き、ナミリアは朝からご機嫌麗しい。
 さて学院の構内に入り、リンローナは何気なくつぶやいた。
「今日の写生の時間、どこを描こうかなぁ……?」
「げげっ!」
 ナミリアの表情が一変する。親友もそれで全てを理解した。
「かばん、お願い。リン、先行ってて!」
 ナミリアはリンローナに持ち物を預けると、もと来た道を全速力で引き返した。どうやら写生の道具を忘れてしまったらしい。魔法学院といえども、専門以外の教養科目も選択できるのだ。
 鐘が一つ鳴り、始業の五分前を告げる。遠ざかる友の後ろ姿を横目で追いつつ、リンローナは応援と冷静な分析をするのだった。
「ナミ、頑張れっ! でも、ちょっと厳しいかなぁ、皆勤賞は……」
 


 11月29日− 

 ふわふわ流れる白い綿雲は羊の群を連想させる――ラーヌ河の中流にあるセラーヌ町は遊牧の盛んな地方都市である。水が豊かなこの町では、あちらこちらで水車が心地よい音を立てており〈水車の町〉との異名を持つ。文化を愛するレオン侯爵のお膝元であり〈ラーヌ三大侯都〉の一つに数えられる。西に行けば王都メラロール、東の山脈を目指せばサミス村という交通の要衝でもある。レンガ作りの通りは景観と調和して美しく、窓辺には四季折々の花が飾られる。郊外には牧場が広がり、その果ては青い空に続いている。
 


 11月28日− 

 ひかりの輪のなかに
 歩きはじめた今日の輝き
 忘れないで
  こころの奥にねむる
  ちから信じて
  夢へ近づこう
 
仮題:ひかりの輪のなかに

 

 11月27日− 

 シモホロとも呼ばれる“モーツ”の原野には河が流れており、見事な鮭が捕れる。向こうに見える三角錐は巨大な砂山だ。狩猟の民はここに砦を築き、流氷に覆われる北国の海を眺めるのであった。
 


 11月26日− 

 薪の燃えかすとともに冬の色が濃くなってゆく。
 まっさらな大地のキャンバスには雪ウサギの跡。
 息も凍りつく世界で命の灯火だけが燃え続ける。
 


 11月25日− 

 白樺の森に狩人が踏み固めた細く曲がりくねった道を、鳥の鳴き声と獣の遠吠えを聞きながら奥へ進み、地面に這いつくばって降りていった急な坂の下で、河のせせらぎが響き、源流が見えた。
「なんだ、この河。湯気が立ちのぼってるぜ」
 ケレンスがぶっきらぼうに言う。辺りには確かに卵の腐ったような匂いが微かにする。タックは鼻から大きく息を吸い込み、人差し指の先をしばらく水につけ、河の上流を眺めていたが、やがて口を開く。
「おそらく温泉から温かな水が流れ込んでいるのでしょう」
「温泉かぁ……」
「せっかくだから行ってみましょ」
 リンローナとシェリアは瞳を輝かせ、ルーグが決断を下す。
「今日は比較的、日程に余裕があるから、行ってみようか」
 五人の冒険者たちは流れに逆らう方向へ小石を踏みながら歩く。進めば進むほどに独特の臭気は強まっていくのであった。
 


 11月24日− 

 視線の行く末には上弦の月がふゆらと惑っている。角張った城壁の一隅にそびえる堅牢な暗黒衝動領域――石造りの塔――の頂上に、いつからか二人の男がたたずんでおり、朝露の夢のごとき月光が投射する微かな影法師が二人とも同じ方角に伸びている。
「人の年輪とは……」
 先に言葉を紡ぎ、語尾を濁したのは若き〈月光の神者〉ムーナメイズであった。そして、その問いかけを受け、応える者は白髭白髪の老紳士だ。ムーナメイズの良き友人であり、人生の相談者でもある〈ノーザリアン公国公爵〉かつ〈天空の神者〉のヘンノオだ。
「失敗の数じゃろうな」
 老公爵の思考は無駄が削ぎ落とされ、単純明快であった。その意味を自分の言葉で言い換えつつ、ムーナメイズは疑問を呈する。
「過去の不手際や出しゃばりを恥ずかしく思い、同じ過ちを繰り返さぬよう努力することが成長の種である、と言えるのでしょうか」
「そもそも人は過ちを繰り返す生き物じゃ。それを止める者が必要となる。人の年輪とは、人の輪、つまり人脈なのかも知れぬ」
 ヘンノオの発言が塔の最上階の空気を鉛直下方へ引きずる。凍えそうな風が吹き抜け、星の唄が聞こえそうな寒国の夜だった。
 


 11月23日○ 

「うむ、いい天気じゃ。素晴らしい考えが湧いてくる気がするぞい」
 魔法研究家で発明家のカーダ氏はそう言って右腕を高く掲げた。その向こうは高く深く透きとおる蒼穹だ。不思議な記号のような白雲は止まりそうな速さで、それでもしっかりと動いている。
「新しい研究成果、楽しみですね」
 弟子のテッテも天をその瞳に映し、澄みきった心で言うのだった。
 


 11月22日− 

 どんな季節であっても、それに焦がれる者は存在するのです。
 彼らにとっては、冬は始まりと出逢いの季節に他なりません。
 まるで金剛石の粉を入れた砂時計をひっくり返したかのよう。
 きらきらと輝く微細な氷の精霊が光の風の中で舞っています。
 


 11月21日○ 

「土に還った落ち葉が、春になるときれいなお花になるのよ……」
 母の話と、その優しいまなざしをリンローナはふと思いだした。
 


 11月20日− 

「ごほっごほっ……」
 発作が起き、ベッドの上で激しく咳き込む。体は熱っぽく、汗が出る。部屋の空気はどんよりと濁っていた。二階の窓からは優しく色づいた銀杏の樹の頂上が見える。それがふいに涙でにじんだ。
「はぁ……」
 体の弱いリュナンは今年も外で黄葉が見られない。友達のサホの元気さに憧れつつ、リュナンはまた重い睡りへと堕ちていった。
 


 11月19日− 

「けさ、寒くて早く起きたらさぁ……すごかったよ」
 シルキアが人差し指を立て、嬉しそうに言う。
「もったいぶらずに話すのだっ」
 姉のファルナが期待しながら話を促す。
「なんとねえ……流れ星の雨が降ってたんだ!」
 それからシルキアは自分の見た流星雨について事細かに語った。色、明るさ、方角、速さ……そしてとにかく幻想的だったこと。
「見たかったですよん。どうして起こしてくれなかったのだっ?」
 さも残念そうに姉が言うと、妹はキツい一言。
「だって、お姉ちゃん、ぜったい起きないもん」
「……確かに、それもそうなのだっ」
 と納得してしまう姉も姉である。それから二人は笑った。
 


 11月18日− 

「そろそろお昼だね……どこにしよっか?」
 ウピが尋ねると、ルヴィルがすぐに反応する。
「新しく出来た『ラミーゼ』ってとこ、美味しいんだって!」
「へーえ、そんなお店出来たの。知らなかった」
 感心しているウピに、ルヴィルはもう一押しする。
「ね、行ってみない? せっかくだからさぁ、いこ!」
「そこでいい?」
 形式的だが、ウピはいちおうレイナに確認を取る。
「はい……美味しければ、どこでも構わないです」
「決ぃまりぃーっ!」
 ルヴィルが右腕を振り上げ、先導する。かくして三人はミザリア市の中心街を目指した。日ざしの穏やかな秋の日であった。
 


 11月17日○ 

 鳥のつばさはないけれど
  心につばさをもっている
 


 11月16日○ 

【ある女性(十九歳)に語ってもらいました】 書記:秋月 涼
 私には妹がいるんだけど、割と何でも器用にこなす方で、特に学院での成績は飛び抜けて良くって、姉の私は常に劣等感をいだいていたわ。兄弟姉妹に優等生がいるって、ほんとに惨めなもんよ。正攻法で勝てないのは分かりきってる、でも、せめて存在感では負けたくないから、だんだん妹の反対を意識するようになっちゃったってわけ……まあ、それでも私なりに節度は守ったつもりだけど。
 でも私が少しだけ素直な気持ちを取り戻せる時があった。それは彼の前。私、彼に出逢ってなかったら、もっとメチャクチャな人生を送ってたと思うわ。不安になった時とか、失敗した時でも、いつも私のことを見ててくれた。口下手で、多くは語らないんだけど、しっかり私のことを見ててくれる。そういう人が身近に一人いるだけで全然違うのね。今となって分かったことだし、今だから言えるけど。
 その彼が遠い街で夢を叶えようとして、旅立つことに決めたの。私はもちろん一緒にいたかったから、父親に相談したわ。そうそう、母親はまだ子供のころに死んじゃったから、私の家族は〈申し分のない職に就いている父親〉と〈四つ年下の妹〉だけだったのね。
 で、その妹が私たち――私と彼のことね――に付いていくって宣言したの。辛抱強く話し合いを続けたら、父親は私のわがままは許してくれたわ。でも妹はまだ学院に在籍していたし、父親は真っ向から反対したのね。でもそれ以上に私が強硬に反対したわ……彼女に悪気がないことは分かってた。変な意味じゃなく彼女は私と彼のことが好きだったと思うし、きっと彼女は彼女なりの直感なり何なりがあって決めたことなのよ。それは分かってたけど、それでも私は怖かったのね。これも今となってはつまんない心配なんだけど……その……妹に彼を取られるんじゃないかって思ったの。
 彼の夢が採用側の事情によって先送りされて、私たちは旅することになった。きっとそのまま旅を続けていたら、私はきっと妹につらく当たったと思うわ。ま、今でも時々は怒鳴ったりしちゃうんだけど、おそらくそんなもんじゃ済まなかったはず。そのまま旅を強行していれば、言うまでもなく真面目な彼女は傷つくし、私も私で後悔と恐怖と憎悪とかで傷ついて、そんな二人を見る彼も傷ついたはずで、きっと遅かれ早かれ破綻は目に見えていたはずなのね。
 でも奇跡は起きた。いや、ああいうのを運命って言うのかも知れないけど……結果としては妹の直感が当たったのかしらね。とにかく昔から勘の鋭い子なのよ。私も何度助けられたか知れない。
 いろいろあって、私より年下で妹よりは年上の男の子が二人、私たちの旅の仲間に加わったのね。土壇場で。言い方は悪いけど、その二人がことあるごとに妹のお守りをしてくれてるわけ。それでようやく私は心の平安が取り戻せたのね。大げさな言い方だけど。私は今まで通り彼と支え合ってればいい、っていう状況。妹とライバルでなくなって――まあ私だけがそう思ってたんだけど――ほんとに良かったわね。普段は言い合いとかしてても、やっぱりただ一人の妹だから、心は通じ合っていたいものね……。ふふ、何だかこんなこと言うの、私らしくなくて、かなり恥ずかしいけど。
 この旅、いつまで続くか分からないけど、まあ上手くいくんじゃないかしら。今の仲間たちがいる限りはね。私の性格で、なんだかんだ文句は出ちゃうけど、今の暮らしに根本的な不満はないわ。
 以上。
 


 11月15日− 

 リィメル族の少女を全速力で追いかけているルヴィエナに、
「ルヴィエナさ〜ん! 今日こそ僕の気持ちを受け取ってくださ〜いなっ! このポルフ、いつもあなた様のことを考えております〜」
 眼鏡をかけたやせっぽちの男が花束を持ちフラフラ近づいてくる。服装は明らかにセンスが悪く、髪はしわくちゃ。美人で、いわゆる〈ないすばでぃ〉のルヴィエナとは、どう考えても釣り合わない。
 しかし、今までしつこくアタックしても全く相手にされなかったルヴィエナが、今日ばかりは違った反応を見せた。なぜか、追いかけている少女の背中を指さしながらも……こんなことを叫んだのだ。
「あたしを捕まえて! お願い!」
 もちろんポルフは目の色を変えてルヴィエナを追跡し始める。イラッサ町メインストリートの混乱の度はさらに深まるのであった。
 


 11月14日− 

「おばあちゃーん」
 孫娘が呼びかけても返事はない。祖母は魔法屋の奥にあるカウンターに頭と両腕をのせ、深い眠りに堕ちていた。しわだらけの手に握られた薬びんには〈睡眠薬〉の文字が書かれている。
「またやっちゃったー。腰痛の薬と紛らわしいんだよねっ」
 半分仕方なさそうに、半分嬉しそうに、孫娘は店を飛びだした。
 


 11月13日− 

「私は反対よ! 金にならないんじゃ、意味ないわ」
 シェリアはそう言いきり、冷めたお茶をすすった。
「まあ、本人がやる気を出さなきゃ意味ねえよなぁ」
 首の後ろで手を組み、ケレンスがぶっきらぼうに言う。
「でも、この安い宿が使えなくなると出費が痛いですね」
 会計担当のタックは頭の中で素早く計算を繰り返した。
「ちょうど短期の仕事も切れたし……どうかなぁ?」
 おそるおそるリンローナが提案し、全員の顔を見渡す。
「未来への投資と考えて、やってみるのはどうだろう?」
 リーダーのルーグが重い口を開くと、その場は一瞬、静まりかえった。リンローナが真っ先に小さくうなずき、それからタック、遅れてケレンスも同調の意を示した。皆の注目はシェリアに集まる。
「もう……やりゃあいいんでしょ! 分かったわよ。だけど、どうなっても知らないからね。ほんと、お人好し集団なんだから……」
 その張本人はそっぽを向いて甲高く叫ぶ。方針は決まった。
 


 11月12日△ 

「ジーナちゃん……勝手に入っていいの?」
 と弱々しく言ったリュアの口をふさぎ、
「しっ!」
 ジーナはその場にしゃがみ込んだ。リュアも、相手に口をふさがれたまま、大きく瞳を開けて座り込む。
 ここは薄暗いデリシ港の倉庫である。湿って澱んだ空気の中に、慌ただしく数人の男たちの足音が響いてきた。そして怒鳴り声。
「オイ、誰かいるのか!」
 ジーナとリュアは顔を見合わせ、ごくりと唾を飲み込む……。
 


 11月11日− 

 秋が衣を脱いでゆく。
 そして長い冬がやってくるのだ。
 


 11月10日− 

「どしたん? 元気ないねぇ」
「うっせーな! ほっといてくれよ!」
 少年はそう吐き捨てると、ベンチを両手で叩いて起きあがった。その勢いを保ったまま駆け出し、小さな砂ぼこりをあげて見る見るうちに遠ざかった。ほどなくして中央広場から姿を消してしまう。
 やや西に下った太陽は相変わらず暖かく街を照らしている。
「ほっといて……なんて言われるとさぁ」
 声をかけた女性のしていた丸眼鏡のレンズがキラリと光った。
「よけい気になるんだよね〜っ」
 ここにラブール町を舞台とした大追跡が始まろうとしていた。
 


 11月 9日△ 

「最高のお茶を見つけられたら、仲間を解放してやろう」
「最高のお茶?」
 俺たちは同時に聞き返した。相手は不適に笑う。
「そうだ。それを見つけることが出来れば……」
「絶対に解放してくれるんだな? 本当だろうな?」
 俺は前に乗り出し、突っかかった。男は深くうなずく。
「保証しよう」
「要はそれを見つけりゃいいんだろ? 行こうぜ!」
「ちょっとケレンス……調べもせずに大丈夫なのぉ?」
 リンがむくれたが、俺はこう言い返してやった。
「他に方法がないんじゃ仕方ねえだろ? やるっきゃねえ」

 それがどれほど大変か、その時の俺は知る由もなかった。
 


 11月 8日△ 

「というわけなんじゃ」
「もう、おばあちゃんが変な魔法使うから……」
 レフキルは未だに違和感があった。無理もない。小さな三毛猫が老婆の声で〈というわけなんじゃ〉と言い、老婆が若い女性の声で〈もう、おばあちゃんは……〉などと言っているからだ。どうやら猫と老婆と孫娘、中身が入れ替わってしまったようだった。
「じゃあ、おばあさん……の形をしたシェラさんに質問だけど」
 話しかけるのさえ混乱をきたす。レフキルはどうにか冷静な対応が出来たが、となりのサンゴーンは目を白黒させていた。
 


 11月 7日× 

 丁寧なノックを三回繰り返し、マリーザは聞き耳を立てる。
「どうぞー」
「失礼します」
 ドアを開けると、宿のお客である小柄な少女が一人、窓辺にたたずんでいた。この部屋は女性二人で予約を受けたが、年上の客はさっき連れの男性と夜の町に出かけたのをマリーザは見ている。
「お茶が入りました……よろしければどうぞ」
 マリーザは丁寧に声をかけ、テーブルにカップを置いた。白いカップからは湯気が立ち上り、部屋の中を香ばしくする。
「ありがとう」
 ランプの光に照らされた薄暗い部屋の向こうで少女が応えた。彼女は夜空を見上げたまま、誰に言うともない口調でつぶやく。
「星が冴えてるね」
「近頃は冷え込みが厳しくなりまして、星も凍えていますよ」
「そうみたいだね」
 言葉が途切れると静寂の高音が耳に響く晩秋の夜である。
「海の方へ行けば、もっと良く見られると思いますが……」
 今夜はかなり寒いですものね……と続けたマリーザの息は湯気と同じ色をしている。相手の少女は大きな瞳を輝かせ、うなずく。
「うん、今日はここからで我慢しとこうかな。ありがとう」
「その方がよろしいかと存じます。では、ごゆっくりどうぞ」
 マリーザは礼をして下がり、ドアを閉める。廊下に出たとたん、背中がぞくっと震えた。メラロール市の雪の季節は間近である。
画:ふろおか200Xさん

 

 11月 6日△ 

 十二歳のナンナの夢は立派な魔女になることです。
 おばあさんのカサラと一緒にナルダ村へ来ました。
 魔法で役立とうとするけれど失敗ばかりで一騒動。
 思うようにはいきませんが、ナンナは頑張ります。
 明るく素直な笑顔がナンナの一番得意な魔法です。

 関連断片……11月 4日、11月 1日、10月25日
 現在、主要キャラのイメージ中。一進一退が続く。
 


 11月 5日− 

 白い宮殿で氷の微笑を浮かべ、雪の女王が出番待ちしとる。
 あったかいせいでな、今年の女王の目覚めは遅いようじゃ。
 あんたの町には、いつごろやって来るんじゃろなぁ……?

 ワシか? ワシは白ひげで赤い帽子をかぶった爺さんじゃ。
 もうすぐワシの出番も来る。偽物なら町に出始めとるわい。

 そんじゃ、また来月な。
 


 11月 4日− 

「ナンナちゃーん!」
 ある過ごしやすい季節の夢曜日、よく晴れ渡った午後だった。丘の中腹にある一軒家に、痩せた小柄の少女が駆け込んできた。
 ドアが開き、出てきたのは同年代の女の子。長い髪を後ろで結んでいる。その子の肩に乗っている白い小鳥は首を傾げていた。
「あ、レイちゃん。こんちは〜」
 家から出てきた方の女の子――ナンナはほんわかと挨拶する。しかし駆け込んできたレイベルは息を切らし、今にも倒れそうだ。
「はぁはぁ……」
「どしたの? そんなに慌てちゃって」
「大変なの、はぁはぁ……ちょっと、来て、くれない、かしら?」
「りょ〜かい! すぐ行くよ」
 二つ返事で了解したナンナは街へ向かう下り坂を疾走する。
「ん?」
 と思いきや急に立ち止まり、肩のピロが危うく落ちそうになる。
「ギギギギッ!」
 ナンナはピロの文句を聞き流し、胸を押さえてフラフラになりながら坂を下ってくるレイベルに大声で高らかに訊ねるのだった。
「そもそも、何が大変なの〜?」
 予想通りの展開に、レイベルはがっくりと地面に膝をついた。
 


 11月 3日○ 

「ん? どうした?」
 ケレンスは自分の横で歩いている小柄な男に声をかける。
「ふむ……何か臭うんですよね」
 タックはそう言って口ごもり、何やら神妙に考えている。
「確かにこの通りには魚を焼く匂いが……」
「だーっ! 違いますよ、さっきの男の話です」
 思考が中断し、やや不機嫌なタックは質問を投げかける。
「彼の話、幾つか明らかな矛盾があると思いませんか?」
「そっかな?」
 ケレンスのあっけらかんとした返事を聞くと、タックの自慢の眼鏡がずるりと落ちかかった。それを丁寧に直しつつ、咳払いをし、盗賊らしくない盗賊のタックは慎重な囁き声で説明を始めた……。
 


 11月 2日− 

「……というわけなんだ。おしまい!」
 シルキアが話し終えると、オーヴェルはにっこり微笑んだ。
「二人とも、本当に素晴らしい体験をしたのね」
「空を飛んだこと、信じてくれるのだっ?」
 身を乗り出したファルナの質問に、相手は首をまっすぐ動かす。
「もちろん信じるわ。二人の真剣な瞳が何よりの証拠です」
 ファルナとシルキアの姉妹はまず顔を見合わせ、それから同時に指を鳴らす。最後は二人で手のひらを合わせ、大はしゃぎした。
「やったやったぁ!」
「ですよん!」
 そこへ姉妹の母親が三人分の熱いお茶を持って現れた。まだ開店前の酒場の隅のテーブルにお茶を置きながら語りかける。
「久しぶりで戻ってきたのに、うちの子のお守りばかりで……」
 オーヴェルは夏の間、静かな山奥で魔法の研究に没頭する。そして秋になるとサミス村へ帰ってくる、渡り鳥のような賢者だった。
 彼女は慎重に言葉を選びながら、穏やかな口調で返事をした。
「スザーヌさん、心配しないで下さいね。私、普段は本とばかり向き合ってますから、ファルナさんやシルキアさんとお話できるのは妹が出来たみたいで楽しいんです。良い気分転換にもなります」
「そう、それならいいんだけど……」
 母のスザーヌは向きを変え、今度は娘たちを見つめる。
「優しいお姉さんが出来て良かったわね、二人とも」
「うん!」
 元気な返事が同時に発せられ、賢者は再び表情をゆるめた。
 


 11月 1日△ 

「あの子のためには環境を変えた方がいいと思ったんだよ……自由な雰囲気の方が、あの子は伸びるんじゃないかと思ってね」
 しゃがれ声でカサラばあが言うと、聞き手の少年はうなずいた。