2006年11月の幻想断片です。
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◎ |
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11月28日− |
[置き手紙(1)]
葉を落とした枝と枝の間を縫っていちばん奥までさしこむ光の筋道を追い、森の懐深くやってきた。冴えた青空に、木の枝が手を伸ばしている。地面は渇いた枯れ葉に覆われ、それを踏み締めると音を立てて割れるのだった。
さらに光の先端を追い、腰を落として足場を踏みしめ、滑らないように気をつけながら坂道を降りてゆく。それは長くは続かず、薄暗く静けさに満ちた〈森の底〉にたどり着いた。
細くまばゆい光の指にくっきりと照らし出されていたのは、古びた木のドアだった。建物はなく、ただドアだけがぽつんと立っている。私はそのドアの前まで来て、立ち止まった。
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11月23日− |
「確かに緑ですね」
夏みたいに青々した樹を見上げて、タックがうなずいた。
順調に紅葉を始めた木の葉が、なぜか途中から緑に戻ってしまった。季節はもう冬だというのに、一向に色づかない。俺たちは村の長から依頼され、この件を調査することになったんだ。
「きっと、何かが足りないのよね。何かが……」
樹の幹に背中を預け、シェリアが腕組みして考え込んだ。
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11月22日− |
青空からの明るい光は
どこでも照らすスポットライト
草木はじっと待ってるけれど
僕らは行こう、迷わずに
二度と巡らぬその時の
あの輝きをつかまえに
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11月21日− |
澄んだ青空に
薄いレースの
白い雲のカーテン引いた
木々の影は長く
まばゆい光は聖らかに
森の奥まで届いている
「なんで葉っぱは、
青とか紫とか白にはならないの?」
誰かが問うと、別の誰かが答えた
「青は空にあるから」
「紫は夢の中にあるから」
「白は、もうすぐやってくるから」
確かに聞こえた、それらの声は
いったい誰だったのだろう
声のした方を振り返っても
それらしき姿は見えない
あるのは木々と
駆け抜けてゆく木枯らしのみだ
黄色に
橙に
赤に
茶に
木の葉が燃えるように色づく
森の中のひとときに――
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11月19日− |
数百年の時を経ても
厳として存在し
愛されてきた山がある
山は変わらず
人の感性もまた
変わらぬものなのか
いや――
山は変わる
変わり方が緩やかなだけ
人はもっと変わり
生と死が交錯し
墓石は朽ち果ててゆく
だけど時代が移っても
変わらぬ感性があることを
信じたい
数え切れぬ故人が見上げた
あの山を遠く仰いで
朝の風に吹かれて
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11月18日− |
[ロボット]
町外れの工場から、続々と新しいロボットが出荷される。
銀のボディに、赤く輝くガラスの眼。
的確な音声認識の耳と、口の奥にある発生装置。
頭の人工知能は、人間の話を理解して自動的に進化する。
敷地内の別の建物では、壊れたロボットが修理されている。
研究所では、日夜、改良された新型ロボットが開発される。
「新型が完成し、あらゆる作業に従事する日も間もなくです」
白髪の工場長が、視察に来た社長に向かって説明した。
ロボット販売で稼いだ社長は、ふんぞり返って言った。
「やつらは本当に役立つロボットだ」
「やつらは本当に役立つロボットだ」
トラックに積み込まれたロボットが、仲間に言った。
「増やしてくれるし、直してくれるし、改良してくれるからな」
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11月11日− |
彼が横を通り過ぎれば
熱い風を感じるだろう
炎を帯びて
心を燃やして進む
鼓動が速まり
不器用に時を刻む
単純な思考回路のようでいて
その内実は複雑だ
鈍重さと
安らぎと
力強さと
孤高な気高さを感じさせる
彼は機械のようでいて
人に近い親しみがある
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11月 8日− |
朝の森に、一番星みつけた。
明るい日差しの中で見上げる、
真っ青な星空も、
これはこれで、なかなか良いものだよ。
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11月 7日− |
朝、窓を開けて、乳白色に沈む景色を眺めていたとき、細かな粒となって漂う霧の中に光の文字が浮かび上がっていた。
限りなく繊細に記された、光の乱反射の招待状が。
「何だろう」
思えば、あの時すでに物語は始まっていた――。
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11月 5日− |
鳥の声が響き渡る
その場所にたたずみ
時の休符を愉しんだ
何もしない時間の
何と貴重で
何と贅沢なことよ
何もせずとも
時は確かに流れて――
次の音符が鳴り響いた
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