[森の入り口で]
「わっ、涼しっ」
港町デリシを背に、緩やかな丘の一本道を登りきって森に入ると、ジーナは歓声をあげた。ルデリア大陸の東に位置する〈魅惑の島〉シャムル島――そこに降り注ぐ白い陽の光は木々の屋根に受け止められて和らぎ、辺りはひんやりとした。
「ふぅ〜」
リュアは大きく息をつき、額に浮かぶ汗の珠を布で拭った。
その間も、ジーナは峠を越えてわずかな下り坂に差し掛かった森の細道を足早に歩いていく。名前も知らない鳥たちの、不規則で高らかな唄が交錯し、辺りを不思議に満たしている。
「ジーナちゃん、待ってよぉ〜」
リュアが後を追って小走りに駆け、何とか友に追いついた。
「これ、ミディアの花?」
ジーナは待ってましたとばかりに、立ち止まって道端の黄色い花を指差した。木々の根本に、夏の太陽のかけらを思わせる鮮やかな色彩を、強く丸く掲げている。
少し息を落ち着けて、花を確かめてから、リュアはうなずく。
「そっか」
ジーナはいつも、丘を登りきるまではやんちゃだが、森の中に分け入ると、ほんのちょっと静かになる。澄んだ青空に照り映える新緑が輝かしい、シャムル島の春の日の午後だった。
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