(C)Ryo Akizuki
KeY: 遅刻

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「……あれ?」

 教授がもう来ている。

「ラサラ君、早く席に着きたまえ」

「はあい」

 周りを見渡すと、生徒もちゃんと集まっている。

(どうなってるの? 毎回、遅れてきたこの教授が……)

「オホン……。時間を守らないと、生徒に対して示しがつかん。

 今後は心を入れ替えて、できるだけ早く来るように努める」

(嘘ぉ? どうして急に方針が変わったんだろう。

 職員会議で注意されたのかな?)

「鐘が鳴ったらすぐに授業を始める。

 生徒の遅刻に関しては、今まで以上に厳しくするので覚悟するように」

 ……しーん。

 生徒たちはがっかりして静まり返る。

「それでは出席をとるぞ」

 教授は眼鏡をかけ、目を細め、名簿を読み始めた。

 しばらくして、ナミリアの番になる。

「エレフィン君」

(ナミ、早く戻ってこないかなあ)

「欠席だな。次……」

(この教室の目の前まで来てたのに。かわいそう)

 出欠の確認が終わり、授業が始まる。

「テキストは五十六ページ。……ラサラ君?」

「はい?」

「みんなに聞こえるように読み上げてくれ」

「一行目からですか?」

「そうだ」

「……マホジール帝国に属するゴアホープ公国では

 フレイド族の独立運動が始まり、指導者ドン・ガインは……」

 何やら、遠くの方からドタバタ走る音が聞こえてきた。

 音はしだいに大きくなる。

「全くどこの生徒だ? 授業中だというのに。けしからん」

 教授は顔をしかめた。

 突然、大きな音がして教室のドアが開く。

「ふぅふぅふぅ……間に合ったー!」

(ナミ!)

 ナミリアはゆっくり顔を上げる。

 ちょうど教授の視線とぶつかる。

「あっ!」

 彼女は凍り付いたように動かなくなった。

 しばらくの沈黙のあと、教授は大声で叫ぶ。

「出て行けーっ!」

「……はい」

 ナミリアは鞄を抱え、そそくさと教室をあとにした。

「全く、どうしようもない奴だ! 評価を大幅に下げておこう」

(ナミの今日の運勢、間違いなく〈最悪〉だね)

「……それではラサラ君、さっきの続きを読んでくれ」

「はい。カイソル河の周辺では……」

 再び、静寂が訪れた。



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