[聖王領の春(1)]
石造りの古い神殿を優しく見守るかのように、浅い碧色の木々や垣根が取り囲んでいる。つぼみが開いて紅や薄桃色、白や紫色の花が彩りを加えている。二羽の蝶が交錯しながらひらりひらりと舞い、それは優雅で不思議な時を刻んでいた。
大通りから上り坂に向かう所に頑丈な門があり、両側の兵士が長い槍を構えている。蹄の音を石畳に響かせて、春の曇り空の下を歩いてきた一頭牽きのの荷馬車が、その門の前で停まった。音が途絶え、鳥の声が高まる。御者は馬の鞍に乗ったまま腕を伸ばし、近づいてきた別の兵士に通行証を手渡した。
「通れ」
張りのある声が響き渡ると、道の両側に立つ門番が槍を立てた。御者が鞭をうならせ、荷馬車は再びゆっくりと動き始める。
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