年初の祈り 〜
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秋月 涼 |
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「今年が、良い一年になりますように……」 澄みきった水色の空を仰いで願いを呟いたのは、コートとマフラーと手袋と帽子という完全防寒の姿で雪の野原を背景に立ち、黒い髪がますます艶やかに見える十三歳のレイベルだ。 「そうだね、レイっち! ナンナもそう思うよ〜♪」 その隣で人なつこい笑顔を浮かべ、穏やかに語って大きくうなずいたのは同い年のナンナだった。雪深い北国のナルダ村で、深い赤のコートを羽織り、レイベルと同じようにマフラーや手袋という暖かい格好に身をつつんでいる。そしてナンナの右手に大切な魔女のほうきが握られていた。髪は朝陽のような鮮やかな金色で、今日は左右で可愛らしい三つ編みにしていた。 「あ、そうだ。その祈りをさぁ、村のみんなに伝えちゃおうよ☆」 ナンナは新年に相応しい、爽やかで少し大人びた声で言う。 「えっ?」 レイベルは驚いて聞き返した。その耳に、ナンナは唇を寄せてささやく。ナンナの真っ白な吐息が洩れて――レイベルの顔はみるみるうちに明るくなった。それから二人は年初の澄んだ青空を見上げ、ナンナは魔女のほうきを握りしめるのだった。 「今年が、良い、一年に、なります、ように……」 言いながら、レイベルは書き慣れた仕草でペンを動かした。 そのペンは普通のペンではなく、丸く固めた雪玉であった。それは書けば書くほど削り取られて、小さくなってゆく。手袋を通して、水っぽく溶けた冷たさがレイベルの指先に伝わってくる。 「できた!」 魔女の孫娘のナンナは紅く染まった頬を気にせず、満面の笑みを浮かべた。彼女は魔法が上手くいった喜びを噛みしめる。 『今年が、良い一年になりますように! レイベル&ナンナ』 広々と横たわっているナルダ村の空の便箋には、字のきれいなレイベルが白雪のインクで記した祈りの言葉が並んでいた。 | ||
(了) | ||
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