黄金の時 〜
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秋月 涼 |
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森には温かな光が降り注いでいたが、たまに通り過ぎる風は澄んで冷ややかだ。真っ青な空には白い薄雲が漂っていた。 帽子をかぶったまま、ドルケン少年が手を挙げた。 「うっす。こんな所にいたんだ」 そこは緩やかな坂の左右に楓の木が連なって立ち並んでいる場所だ。サミス村の子供らは、通称〈楓の谷〉と呼んでいる。 「こんにちはですよん」 近くにいて最初に気づき、返事をしたのはファルナだ。村でただ一つの宿屋であり、酒場でもある〈すずらん亭〉の娘である。 彼女は小さな籠を左腕で抱いており、その中には濃い緑や淡い緑、黄緑色、緑みを帯びた黄色の楓の葉が詰まっていた。どうやら熟す前に落ちてしまった楓の葉を集めているようだった。 まさに、その時だった――。 陽の光で編んだかのような一際目立つ黄金色の楓の葉がひらひらと飛んできて、ドルケンの帽子の上に舞い降りたのだ。 「あらっ」 ファルナがおっとりと感嘆の声を発し、ドルケンの頭を見た。 「んっ?」 注目を受けて不思議に思った少年は、帽子に手を伸ばす。 「おっと」 彼は木の葉を手に取ると、まばゆい太陽に透かしてみた。 「ケン坊!」 突然、坂の先から別の少女の声が発せられ、ドルケンを愛称で呼んだ。ファルナの声に似ているが、もう少し鋭さを感じる。 「シル子」 ドルケンは呟いて、その声の方角を見た。 そこにはファルナの妹のシルキアが立っていた。 「今行く!」 シルキアも姉と同じような籠を抱えていたが、その上を手で抑えて葉が飛ばないようにしながら坂道を大急ぎで駆けてきた。踏みしめた茶色の落ち葉がパリッパリッと乾いた音を立てた。 「ケン坊、ケン坊!」 愛称を呼びながらシルキアが近づくと、相手はたじろいだ。 「どっ、どうした……」 シルキアはそこで首をちょっとかしげ、黄色の葉を指さした。 「よかったら、その葉っぱ、くれない?」 彼女の籠には、赤みを帯びた黄色、赤、そして夕陽を思い起こさせるほど見事な真紅に染まった楓の葉が詰まっていた。 わずかに頬を染めたドルケンはまばたきして、うなずいた。 「おう、あげるよ」 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 山奥のサミス村に夜の帳がおりた。その晩も〈すずらん亭〉は一日の生業を終えた木こりや狩人、職人たちで賑わっていた。 「いらっしゃませ〜!」 シルキアの元気な声が、一階の酒場にこだまする。 「只今、お持ちするのだっ」 ファルナはテーブルを回って明るく注文を取っている。 そして温かな輝きをふりまくランプがぼんやり灯る窓辺には、姉妹が森で拾ってきた楓の葉を長い紐に貼りつけて順に連ねた飾りが、何本か間隔を空けて天井から釣り下げられていた。 それは若い緑から黄色、橙色、熟した赤へと、まるで季節の変化を示すかのように配置されていたが、そのちょうど真ん中に黄金色にきらめく印象的な葉があった。それこそが、昼間にドルケン少年が帽子で受け止めた、あの美しい木の葉だった。 シルキアはその葉を見つめて、満足そうに微笑むのだった。 | ||
(了) | ||
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