[東三つ岳]
「ええ、まさしく〈神の領域〉でした」
旅人のロフィアはうなずき、さらに言葉を紡いだ。
「神と言っても、最高神ラニモス様や聖守護神ユニラーダ様、もしくはアルミス様やスカウェル様たち四季の神々とも違います。それが何か分からないけれど、もっと原始的な神様でした」
近くのテーブルに座っていた村の木こりたちは、葡萄酒をなみなみと注いだ木のコップを傾けながら青年の話を聞いていた。
「青空が近く、雲が頭上のすぐ近くを速く流れてゆきました。足を止めると音が消えた。私の足音が途絶えれば、鳥の鳴き声さえ聞こえないからです……時折吹いてくる風の音の他には」
「そんな場所が〈東三つ岳〉にあるってのか」
髭を生やした男が感銘を受けた様子で語った。この村からさらに辺境の東を目指して三つ目の峠にあたる〈東三つ岳〉付近には、村の男たちもあまり行かない。旅人はその山を越える時に少し脇道へ入ったところ、天に近い平原を見つけたのだった。
「ええ」
ロフィアはまたうなずいて、しばらくの間、遠い目をした。
|