「あの曇り空、尖った針で線を引けば……」
リュアが小さく温かな吐息をつき、薄い灰色の天を仰いだ。
(きっと白い雪の粉が、ほんの少しだけこぼれ落ちてくる……)
冷え切った町を歩きながら、リュアはほとんど声を出さず、唇を微かに動かして想いを独りごちた。
そのひとかけらの雪が――もしかしたらデリシ町に落ちる、今年最初で最後の雪になるかもしれない。
「あと少し……」
リュアは再び喉を震わせ、橙色の手袋の両手を堅く組み合わせた。
軽やかに北風が流れ、港町の通りを駆け抜けた。
そこでリュアはふっと地上に目を戻し、家々の屋根から、曇る窓硝子に目を移した。
彼女はしばし立ち止まり、微かに呟く。
「テッテお兄さんに頼めば、叶えてくれるのかな……」
それから少女はまた空の遠くに眼差しを運び、ほんの小さな溜め息をつくのだった。
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