2010年 2月

 
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2010年 2月の幻想断片です。

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  2月17日− 


 ランプの瞬きの届く範囲が
 今のあたしの視界のすべて
 闇から守られている
 ほんの小さな、いっぱいの世界
 
 不思議なくらいに澄みきった
 夜色の風に抱かれて
 大粒の雪たちが横切る
 あたしの睫毛に冷たさを残して
 
 白い天使たちが
 いびつな羽を広げて
 次々と舞い降りてくる
 
 あたしの世界の凡てを
 回りの宇宙の果てまでを
 真新しい銀色に染めながら
 


  2月14日− 


[雪の柱]
 
「ひゃ〜っ。どこまで高いの?」
 商人の娘、八歳のジーナが空の高みを見上げた。
 町外れの見渡す限りの野原に、太い樹のような一本の白い柱が立ちはだかっている。晴れて澄みきった空に力強く腕を伸ばすかのように、その柱は同じ太さで天に突き刺さっていた。
「……」
 ジーナの親友のリュアも蒼い瞳を何度もまばたきしている。
「これが[雪の柱]なんだね!」
 元気に叫んだジーナを、テッテ青年は優しく見下ろした。
「ええ、これです」
「きらきらしてる……」
 太陽の光を浴びて表面が溶け始め、緻密に不規則に輝いている白銀の柱を夢みるように見つめて、リュアがつぶやいた。
「ゆうべ少しだけ雪が降った時、風で集めて縦に溜め込んでおいたのです。倒れることはないように、氷水の力と天空の力のバランスを取っていますが、だんだん雪が溶けてしまうと……」
 テッテが喋り終わらないうちに、三人の目の前に立つ[雪の柱]のあちらこちらが強く光を反射し、淡く透き通り始めた。
 青年は二人の少女を守るかのように、すっと前へ出た。
 
 そして、次の刹那――。
 まばゆい輝きは連鎖し、最高潮に達した。
「あっ!」「きゃあっ!」
 二人の少女は額に手を当てて上半身を屈め、悲鳴をあげる。冷たい風が動き、光の渦が通り抜けてゆく感覚があった。
「驚かせてすみません。もう大丈夫です」
 テッテの声がゆっくりと響いて、ジーナとリュアは恐る恐る瞳を開いていった。目の前にあった[雪の柱]は失われている。
「向こうです」
 青年が指さしたのは、柱が伸びていた空の高みだった。
「わーっ、きれい!」
 ジーナが感動の叫びをあげ、リュアは両手を組んだ。
「昼間の空に舞う、宝石たち……」
 空には数えきれないほどの雪の粉が舞い、風に流れ、太陽の光をいっぱいに受けて銀の星たちのようにきらめいていた。

ジーナリュアテッテ
 


  2月13日− 


 灰色の空を握りしめると
 小さなゆきだま、生まれる――
 


  2月12日− 


 朝の粉雪
 淡く消えゆく
 あたしの頬に触れて――

 あの冷たい記憶だけ残して
 


  2月11日− 


 雨と雪が混じりながら
 冷えきった風の刃吹かれて
 仲良く氷点の上と下をさまよう
 


  2月10日− 


 光の宝石箱
 あらゆる光を集めて
 花の朝露に載せる――
 


  2月 9日− 


(休載)
 


  2月 8日− 


 白い樹に淡い緑の雪に
 冷たい嵐の中に新しい春の芽が
 ほんの少し、垣間見える
 


  2月 7日− 


 澄んだ青空に
 真っ白な雲を浮かべて
 ゆっくり息を吹き掛ける

 雲の流れは時の流れ
 本当はゆっくりのはずなのに
 あっという間に流れ去る不思議
 


  2月 5日− 


 星の光の波動
 ささやかな歌声――

 透き通った清かな流れが
 しっとりと冷たい空に
 染み渡ってゆく――
 


  2月 4日− 


 この闇のはるかかなたで
 光にたどり着けるの?

 近づいているような
 遠ざかっているような
 月のまばたき
 


  2月 3日− 


 雨はすぐに走り去るけど
 雪は地上に思いを残して

 だんだん遠ざかる

 きっと
「去りがたいな」
 と振り返りながら
 


  2月 1日− 


 雪の種、夢の種
 空からこぼれ、あふれて
 春になれば
 たくさんの花が咲きますように
 




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