夢の始まりへ

 〜森大陸(しんたいりく)ルデリア・幻想結晶〜

 

秋月 涼 


「私は……まずは馬だな」
 ルーグが、欲しい物のことを語るなんて珍しいことだった。
 タックと三人、地方の宿の男部屋で話していた時のことだ。
 
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 騎士になりたくて――それも、異国メラロールの由緒ある騎士団に入りたくて、モニモニ町での学院時代に馬術と剣技の修行を積んだルーグだった。せっかくメラロールに来たものの、異国籍の人向けの登用試験がかなり先と言うことと経験不足を理由にいったん断られ、冒険者になってからは、かなり馬と縁遠くなってしまっていた。もちろん、駆け出しの冒険者だった俺たちには、金銭的な余裕がなかったからだ。シェリアとリンの親父さんはメラロールとモニモニ町を結ぶ商船の船長で、冒険者になると決めた時に申し出れば援助してくれたと思うが、ルーグだけでなくシェリアやリンも自分たちの力でやっていく方を選んだ。

 騎士と馬は一心同体、切っても切り離せない関係にある。馬を駆り、重い鎧を着て鉄の長槍を持ち、主君の恩に報いるために、愛する国と人々を守るために隊列を組んで突撃する騎士は戦の華だ。特にメラロールの騎士団は精鋭揃いで、世界最強の誉れ高く、他の国からも名誉と領地を求めて集まってくる。
「荷馬が一頭いるだけでも、だいぶ楽になると思うのだが。むろん今すぐは無理だが。ゆくゆくは……という希望は持っている」

 街道を歩けば冒険者連中ともすれ違うが、経験の長いやつらは馬を持ってる。馬に荷物を預けられれば体力が温存できるし、何か急に必要なものがある時は、隣町までひとっ走り行ってもらうことも出来る。リンが調子を壊しても、乗せてやれる。

 ただ、山奥や峠道になると道が悪いので、馬があると余計に大変になったりすることもある。俺たちみたいな〈徒歩組〉の冒険者は、むしろ、そういう辺鄙な場所を狙うことになる。山奥にあるサミス村ジャミラの町、深い森の中にあるアネッサ村、名前は忘れちまったが天音ヶ森のある田舎町とか、諸々――。

「確かにエサ代もかかるしなぁ」
 ベッドに寝転がって俺が言うと、ベッドの縁に腰掛けたルーグは低い声で唸り、腕組みして首を少し傾け、応えるのだった。
「草原をゆくなら、無料なのだが……」

 旅の途中、草原はあまり好まない。身を隠す場所がなく、夏は日が暑い上に、一番困るのは雨に降られた時だ。特に強い雷雨のとき、食料まで水浸しになると困ってしまう。身体が濡れると風邪をひく。水を弾く材質の服を羽織ったり、テントを張れば、一応雨が直接に服に染み込むのはしのげるが、限界はある。できれば適度に木が生えている街道を行くのが望ましい。
 
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 俺はその後、天敵とも言えるシェリアと話し合って、ルーグの夢の実現のため、ひそかに少しずつ貯金を始めることにした。

(了)



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