2005年 5月

 
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2005年 5月の幻想断片です。

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  5月31日− 


[風に言葉が]

 風に言葉があるのなら
 どんな話をしているのだろう

 雨に想いがあるのなら
 どんな気持ちを秘めてるのだろう

 木の葉の色や、花の色が、
 彼らなりの詩ならば
 何を讃えているのだろう

 眼を閉じて
 木漏れ日の中で
 昨日の雨の名残の、雫を味わい
 静かな心地よい風に吹かれていたい

 花の香を微かに感じながら――
 


  5月30日△ 


[夕焼けの気持ち(7)]

(前回)

 淡く紅く燃ゆる空の遠くに、小さな銀色のきらめきが現れた。
「あっ、一番星」
 すぐに見つけたレフキルが指で指し示すと、サンゴーンは瞳を素早く瞬きさせて、それから眼を凝らし、左側に首をひねった。
「うーん、どこですの〜?」
「なんていうのかな、あの妙な、お皿みたいな形の雲の……」
 とレフキルが腕を伸ばして説明すると、サンゴーンは相手の指し示す方向を見るのでなく、話に聞き入って顔を覗き込む。
「お皿ですの?」
「ほら、あっち見ててね」
 親友のレフキルは嫌な顔ひとつせず、ごく自然な馴れた口調で、やんわりと相手を諭した。サンゴーンは素直にうなずいた。
「ハイですの」

 二つの影法師が砂浜に長く延び、横たわっている。波はいよいよ紅く染まり、満ち潮の渚は夕凪を迎えて静まり、陽は水平線に近づいていた。海鳥は虚空を渡り、郷愁を誘う声で啼く。
 そしてサンゴーンはしばらくの間、一番星捜しを続けていた。
「わからないですわ……」
「うーんと、もうちょい上かな」
 眩しい夕陽に背中を向けて、レフキルは的確に星のありかを教えた。東の空は、少しずつ明るさがほのかに和らいでゆく。
「あっ! ありましたの」
 とたんにサンゴーンは満足げに口元を緩め、始まったばかりの星明かりの宝石に浸りたいかのように、ほっそりとした白い両手を後ろ手に組んで背伸びをし、何度か軽く爪先立ちした。

「さあ、帰ろっか」
 夕陽が沈み終わるのを見届けてから、レフキルが語る。
 その瞳に映るサンゴーンが、小さく真っ直ぐにうなずいた。
 彼女の、うっすらと青みがかった銀の前髪がさらりとなびく。

 砂浜を離れ、二人が歩むその間にも、紅く染められた南の国の蒼と碧の海は紫色、藍色へと、驚くべき変化を遂げてゆく。
 冬のように張りつめてきっぱりと厳しく透き通ったわけでもなく、初夏のような清明さとも微妙に異なり、夏のように力強いわけでもない。豊かさでは秋にかなわず、秋の真ん中を思わせる芸術さとも違い、晩秋のように泣きたくなるような空でもない。
 だが、それでも春の夕暮れは魅力的であった。どこか曖昧さと不思議さ、未熟さを潜めて、夜の始まりを不確かに伝える。

 真砂は足元でくずれ、終わりのない砂時計となって悠久の時を刻む。サンゴーンとレフキルは西の海に背中を向けて、長い影法師を踏み、斜め上に連なる故郷のイラッサ町の方を仰ぎながら、明日に繋がっている小道を並んで歩いてゆくのだった。

(おわり)
 


  5月29日△ 


[磨りガラスを通り抜けて]

 磨りガラスを通り抜けて
 あらかた形が溶けてしまっても
 それでも夕陽は夕陽なんだね

 どんなに変わってしまっても
 変わらないものはある、っていうけれど――
 この夕陽を見ていると、確かにそうだと思えてくるよ

2005/05/29
 


  5月28日△ 


[光は色を]

 光は色をもたらしてくれる
 晴れた日には、鮮やかな季節の色を感じてごらん
 蒼い海を、翠の木々を、赤や黄の花園を――
 それ本来の彩りが、真に照らし出されるから

 光は影を投げかけてくれる
 くすんだ曖昧な曇りの日とは違い
 眩しさ、暑さ、そして日陰の涼しさも――
 青空の下では、全てがはっきりとする

能登の海(2004/08/12)
 


  5月27日− 


[夕焼けの気持ち(6)]

(前回)

「やっぱり春は、希望に満ちて笑ってるような感じだよね」
 翻って、レフキルは今現在の季節の空に秘められている〈夕焼けの気持ち〉に想いをめぐらせた。暖かさや眩しさが印象的だった冬の落日に比べると、春の夕暮れは太陽自体よりも昼間が長くなったことが記憶に刻まれる。だがこうして改めて見つめれば、明るく魅惑的な希望の女神アルミスを彷彿とさせる。
「ハイですの」
 うなずいたサンゴーンも、その隣のレフキルも――彼女らはまだ十六歳だ。夏も秋もいいけれど、二人には花咲き蝶の舞う春が似合った。白い砂浜はなだらかな起伏を描いて続き、海沿いの道に沿って続く背の低い木には、南国らしい鮮やかな赤桃色の牡丹に似た大きな花が咲いていて、花びらを落としている。
 潮風に煽られた漣(さざなみ)の切れ端が、若さにあふれた少女たちの艶やかな頬を、白いうなじをかすめて、消えていった。


  5月25日− 

  5月26日○ 


[明日の絵]

 私の家には、何枚かの絵が飾ってある。
 今日はそれをご紹介しよう。

 東向きの壁に掛かる一枚の絵は、深い森にたたずむ湖だ。
 風に乗ってうっすらと白い霧が漂い、麗しい深緑と交錯する。
 鏡と見まがうばかりの澄んだ湖には、淡い霧と、まだ完全には明けきっていない青空の雲が映っている。時は清らに――。
 背中に羽の生えた妖精たちが、水面の上の雫となって。
 まだ誰もが最後の眠りに沈む間に、明け方のワルツを踊る。

 南向きの壁の絵は、島の斜面に広がるなだらかな野原だ。
 日はまぶしく降り注ぎ、せせらぎに小魚の銀の鱗が光る。
 あらゆる色の蝶が舞い、背の低い木々の枝先で鳥が唱う。
 微かに潮の香を帯びた風を受けて、黄色の花は波になる。
 その強い匂いが、絵の範疇を越え、私の元に届けられる。
 

 そして西向きの絵は、黄昏迫る緩やかな砂浜を描いている。
 夕陽が斜めに射し込んで、私の頬は暖かな彩りに染まる。
 心臓の鼓動に近い不確定なリズムで、波は寄せては返す。
 岩場に迷った海草は、満ち潮に浸かり、ゆらり揺られて。
 彼方の沖では黒い船影が煙を吐き、少しずつ横に流れた。

 そう、絵の中の船は確かに動いている。
 そればかりではない。
 海の波も、野の花も、湖の霧も。妖精も、風も、夕陽も。
 時も光も移ろいゆく。私の家の絵は、いつも同じではない。

 私の家には、何枚かの絵が飾ってある――。
 それは私の奥から、世界に繋がる〈心の窓〉だ。
 私が思いさえすれば、壁は絵となり、窓となり、ドアとなる。
 鳥のさえずりや人々の歓声、波の音が聞こえてくる。
 花の香りはいよいよ強く、森の息吹の匂いも感じられよう。

 それらの絵を、私は静かに開けよう。
 風通しを良くして、新しい空気を取り入れるために。
 未来の窓、あるいは明日の絵に、小さな夢を描いて。

(おわり)
 


  5月24日△ 


[花暦 〜紫陽花の季節〜(1)]

「お花で季節が示せれば、素敵なのになぁ」
 淡く可愛らしい桃色に染まる紫陽花(あじさい)の、麗しくも複雑な花を間近に見下ろし、リンローナが呟いた。少女は顔を上げてこちらに向き直り、草色の優しい眸をまばたきさせて言う。
「例えば、今は〈紫陽花の季節〉とかね」
 彼女は少しはにかんだ素直な微笑みを浮かべた。

 貴婦人のヴェールを思わせる優雅なしっとりとした霧雨は、枝と枝、葉と葉が腕を伸ばして作り上げた森の傘が受け止めてくれる。微細な雨のリズムの中、普段は地味な背景となっている羊歯(しだ)や苔たちの緑が映え、心なしか嬉しそうに見える。
 降り続く細かな雨が木々や草や土の匂いを引き立てる。この〈命を育む揺りかご〉の匂いや、雨に混じって飛び交う小さな羽虫たちを、多くの町の娘たちは嫌がるけれど、立ち上がったリンローナは眼を閉じて胸を広げ、大きく息を吸い込むのだった。
「あたし、森の雨って、気持ちぃなって思うんだ」

(続く?)
 


  5月23日△ 


[夕焼けの気持ち(5)]

(前回)

「そうだよね、冬の夕焼けは」
 サンゴーンの言う〈泣きたいくらいの〉優しかった夕暮れを自由に豊かに思い描き、それを心の奥でゆったりと受け止めながら、レフキルは満足そうに頬を緩めて相づちを打った。日暮れの風はあの頃ほどには冷たくないけれど、蒼い波を越えて駆けてくる爽やかさは、時に襟元や袖から腹部や背中に染み込んで来て――不思議でほんの少しの妖艶さに充ちた春の夜がそう遠くないことを微かに軽やかに、そして秘やかに教えてくれる。

「透き通っていて、触ると溶ける魔法の氷菓子みたいですの」
 優雅な銀の髪を風になびかせ、夕陽に白い頬を染めて、サンゴーンが言う。年中温暖な亜熱帯のミザリア国で、天然の氷を見られることはまずない。無人のラミ島にあると伝えられる〈水の洞窟〉の最奥部でしか見られないだろう。一般的に見かけるのは、せいぜい魔術師が創り出した高価な氷菓子くらいだ。
「森が燃えたり、ユキに白く染まるって、どんな感じなんだろう」
 遠国の紅葉や雪を思い浮かべて目を細め、レフキルが呟く。


(休)
(載)


  5月20日− 


[森の鏡]

 淡い黄緑色の模様の入った
 純白のスカートを長くはためかせ
 春風の妖精は
 森の中を速やかに
 軽やかに、爽やかに駆けめぐる

 その森の中で
 一番透き通った泉を見つけられれば
 それは森の鏡かもしれない

 ずっと覗き込んでいれば
 いつかきっと
 春風が立てた波紋の合間に
 妖精たちの清らな姿が映るだろう
 


  5月19日− 


[絵描き]

 真っ青なコーヒーが
 頭のはるか上で
 さかさまの大海原を形作っている

 あるいは吹き流しのように、
 あるいはミルクのように、
 不思議な模様の渦巻きで
 うっすらと雲を描いて――

 澄んだ水溜りを水差しの代わりにして
 私はさっきから絵筆を動かしている
 絵筆は雲を千切ればいい
 パレットの代わりは、信号機に上塗りして

 森の鮮やかさ――木々の碧も、
 彩り豊かな花たちも
 それそのものに絵筆を浸ければ
 偽りのない本来の色で、絵が描ける

 そして
 透き通った水晶に
 蒼い色をつけたような空に
 絵の具をぬって

 もしも風景の絵に人物がほしいと思ったら
 自分を描いて、
 絵の中の世界に遣ってこよう

 まるで身体に沁みる真冬の温泉みたいに
 魂まで、とろけて――
 



(休載)



  5月15日△ 


[雨宿りの約束]

 人が立ち往生するのも
 たまにはいいね

 いつも心の時計は慌ただしいから
 たまにはあわてず
 雨が去るのを待ってみようか
 大きな川にかかる橋の下で

 また強くなってきた
 雨も久しぶりに
 思いきり降りたいんだろうな

 いつまでも登る峠がないように
 いつかはこの雨もあがる

 よしきた
 ひと雨ふらせなよい
 気がすむまで

 そして気がすんだら
 春の夜空を見せておくれ

 これが、雨宿りの約束だよ

雨上がり(2005/05/15)
 


  5月14日− 


[灰色の空の下でも]

 道端の散りかけたつつじが
 桃色の夢を奏でている
 灰色の空の下でも
 それは鮮やかに映えていた
 


  5月13日− 


[夕焼けの気持ち(4)]

(前回)

 レフキルは軽く息をついて胸の古い空気を吐き出し、肩の力を抜き、安らいだ雰囲気で親友のサンゴーンの方に向き直った。
「それで、冬の夕陽は凛として、孤高っていう感じかな?」
 過ぎ去った季節を思い出し、レフキルはつぶやいた。大まかには雨季と乾季しかない亜熱帯のミザリア国では、紅葉や雪のような北国の季節の風物詩を見ることは出来ない。だが、海や空の色、波や風の具合、光の強さや柔らかさ、天候、咲く花や野菜類の実り、人々の装いなどが移り変わり――北国と同じ意味合いではないが折節(おりふし)を感じることはできる。
「わたしもそう思いますわ」
 相手の意見を認めたうえで、サンゴーンはさらに言った。
「ちょっと疲れているような気弱さを感じるけれど、どの季節よりも純粋で優しかった夕暮れもありましたの。泣きたいくらいに」


  5月12日− 


[夕焼けの気持ち(3)]

(前回)

 青緑の中でも最も爽やかで鮮やかな部類の色に抱かれた遠浅の珊瑚の樹海を抜けて、あまたの透き通った波と細かなしぶきは、うっすらと夕陽に染まる白い砂浜に近づく。行きつ戻りつする波音は、胸の鼓動のようにほんの少しだけ不規則な間隔でやって来て――それはごく自然な和声で心地良く響いた。
 橙の光が波間にちらちらと揺れて、流れる風は涼しかった。

 明るく開放的な南国の海であっても、黄昏時、波の囁きに重なり合う海鳥たちの啼き声は無性に情緒と郷愁とを誘う。薄い雲が広がっていて、色が赤みを帯びている。同じものは二度と見ることが出来ない、この瞬間だけの芸術に惹きつけられる。
 まぶしさよりも暖かさの方を強く感じさせる西の空のかなたに浮かぶ橙の夕陽を見つめ、二人の少女たちは季節の移ろいに適った色々な太陽を思い浮かべ、しばらく語り合うのだった。

「夏の昼の陽射しが残っている夕陽は、とても情熱的ですわ」
 きたるべき次の季節に期待をかけて、サンゴーンが言った。
「そうだね。で、秋は哀しいほど美しくて、優雅で品があって」
 相づちを打ち、レフキルは手を後ろ手に組んで軽く背伸びをする。夏を通り越し、今とは正反対に位置する成熟した季節に頭の中の時間を進めたレフキルの影が、砂浜に長く延びていた。


  5月11日− 


[夕焼けの気持ち(2)]

(前回)

 確かに、いま真上に拡がっている空は〈かすかに清楚に〉笑っているようにも見える。澄んだ青空は少し大人びた少女の無邪気さとあどけなさを、金色(こんじき)の太陽は果てしない夢とまばゆいばかりの希望を、うっすらとかかっている霞は少女が秘めている不思議さや妖しさを表しているかのようにも思えた。
「ハイですの」
 この淡く儚い夕暮れに相応しい、円やかで味わい深い語り口でサンゴーンが応えた。彼女自身も、あの空につつまれているからだろうか――清らな、満ち足りた微笑みを浮かべていた。
「夕焼けも、十人十色ですわ」

「十人十色か……そうだね」
 相手の言葉を噛みしめるようにレフキルが語った。妖精の血を引くリィメル族の彼女は、やや長い耳をほんの少し震わせた。
「夕焼けの気持ち、か」
 レフキルがそう呟くと、サンゴーンも立ち止まり、返事をした。
「夕焼けにも、きっと気持ちがあるのだと思いますわ」


  5月10日△ 


[夕焼けの気持ち(1)]

「今日は、かすかに……清楚に笑っていますの」
 暮れゆく春の淡い黄昏を見上げ、ちょっとした中途半端で未完成の節をつけてつぶやいたのはサンゴーンだった。その言葉は、例えるならば柔らかな音符のように――無駄な力みは削がれ、優しく儚げに、そしてどこか神秘的に響いたのだった。
「空が?」
 勘のいい親友のレフキルは、そう訊ねてから少しずつ歩く速度を緩め、ついに立ち止まる。足元で崩れていた砂も止まる。

 サンゴーンの長いスカートの裾が、優雅に爽やかにはためいている。その横を赤い小さな蟹の親子が横歩きで進んでいた。
 過ぎゆく優し風に、レフキルは銀色の前髪を軽く掻き上げた。
 時は永遠を奏で、波音は悠久を刻む――。

 ここは島国のイラッサ町の、広々とした砂浜だった。自分の心までが尽きぬ空と海に抱かれて、おおらかになれる気がする。
 昼間は雲に覆われて、雨が降りそうな気配もあった海岸線だったが、夕方になるとしだいに雲は角砂糖のように割れ、溶けていった。ヴェールのごとく薄く霞んだ天には橙の強い輝きが浮かび、全てのものを分け隔て無く、温かな光で照らし出している。柔らかで和やかな雲は澄んだ平穏な蒼空を漂っている。
 その空を西の方角に追えば、色は黄金(こがね)へと移り変わっていた。全ては連続しながら、いつしか確かに驚くべき変化を遂げている。それは河から海に至る道筋や、時の流れ、もしくは人の生い立ちにもどこか重なる深い夕焼け空であった。


  5月 9日△ 


[空の湖]

 人口が極めて希薄な辺境のレルアス村の夜はしんと静まり返り、野の遠くから獣の吠え声が平原の細切れの風に乗って飛んでくるだけだ。凛と張りつめた空気は、冷ややかだった。
(ゆうべは……満月だったんだ)
 十四歳の少女クルクは、レルアス女史――精霊界から幻獣を召喚するという非常に高度な魔法を用いる〈月光術師〉の権威――の弟子で、見習いである。同じ〈月光術師〉たちが共同生活を送っている屋敷の軒先に立ち、クルクは右側が微妙に欠けている今宵の十六夜(いざよい)の月を仰ぎ見て、自由な空想を膨らませていた。夜気は澄み、月の輪郭は際立っている。

(もし、ここに湖があれば――月影がゆらめく)
 クルクの心の中に現れた湖は、とても静謐であった。その中央から少し外れたところに、十六夜月の忠実な複写であるかのような白金の月が浮かんでいて、しばらくは微動だにしない。ただ、風が通りすぎれば次々と波紋が立ち、湖の月もゆらいで、結局は〈本物には追いつけない〉ことが露呈されるのだった。
(その場合の〈本物〉は、空にある月のほうね)

 そこでクルクの心の風景に、一つの新しい要素が加わる。
 空の彼方にも、地面を逆さまにして闇の底に貼り付けたかのような一つの昏いぼんやりと平原が現れ、すぐに根を張った。
 そして、その空の大地――あるいは大地の空――にももう一つの湖があり、不思議で魅惑的な十六夜の月を映している。

 その空からは月が消えていた。
 それでも上と下に広がっている二つの湖は、同じように十六夜の月を複写し、あたかも何も変化がなかったかのようにふるまっていた。風が吹くとやはり忠実にゆらめき、その月が〈本物ではないこと〉を告げている。この場合、月は本当に消えたのか、見えなくとも存在するのか、むしろ最初からなかったのか。それとも、湖の月こそが〈本物〉になってしまったのだろうか。
 もしそうだとしたら、始まりはあるはずで、どちらの月が本物で、どちらが後続なのか。どちらがどちらを映しているのか。
(そもそもどちらが空の上で、下なのだろう――。二つの湖が、地面の湖のようにも見えるし、空の湖のようにも見えますね)

 二つの湖と、二つの月。
 空は大地で、大地は空。
 くるりと回転させても、全く同じように見えてしまう。

 少し目眩を感じたクルクが額を軽く抑えてふらつくと、誰かが優しく繊細に肩を支えてくれた。指から温もりが伝わってくる。
「レルアス様」
 振り向きながらつぶやいたクルクには、振り向く前から相手が誰だか分かっていたようだった。確かな空には、十六夜の月が一つ、相変わらず秘やかに、安らぎに充ちた光を放っている。
「疲れているようですね。そろそろ休みましょう」
 月光術師の権威である三十八歳のレルアスが素朴に笑い、クルクも微笑む。親子ほど年の離れた師匠と弟子は、消えそうで消えない薄い月の影を木の廊下に長く描きながら並んで歩き、やがて別れ、それぞれの寝室へと静かに帰るのだった。
 


  5月 7日− 

  5月 8日− 


[藍の空色(1)]

「どうしたの? ねむ?」
 並木道の梢からちらちら降り注ぐ光にまぶしそうに目を細め、サホはレンガで舗装された小道を、身軽に数歩戻ってきた。
 ゆうべの春らしい気まぐれな強い雨は今朝のうちに上がり、掃除された空は柔らかな雲が流れて、少し冬空を思い出させるように透き通り、遠い山並みがはっきりと見えた。陽射しは、まるで人が伸びをするかのように本来の輝きを存分に発揮して、気温は上昇し、雨の名残の水たまりは青空へ還っていった。
 十五歳にしては整った体つきの、サホの濃い影が立ち止まり、しゃがんで丸くなった。どこからか甘い匂いが漂っている。

「何してんの?」
 サホが相手の両肩にそれぞれの手を置き、後ろから覗き込むようにして訊ねると、呼ばれた方の少女はゆっくり振り向いた。
「ねえ、サホっち。これ、かわいいよ〜」
 やや痩せている〈ねむ〉ことリュナンは、優しげに青い目を細めた。淡い金色の髪は、今日は後ろで三つ編みにしていた。
「ん? 何々?」
 赤毛のサホはあっけらかんとした声で訊ね、同級生のリュナンの肩に置いた手に重心を移し、それを反動に半分だけ立ち上がろうとした――のだが、華奢なリュナンは相手の体重を支えきれず、あっけなくレンガ作りの道端に尻餅をついてしまった。
「ひゃあ」
 リュナンは情けない声を出し、サホは驚いてすぐに謝った。
「ごめーん」

「よいしょ」
 それからリュナンは手をはたき、薄桃色のスカートの砂埃を払ってしゃがみ直し、ズボン姿のサホはリュナンの横に移動して立て膝の姿勢になった。この並木道の道幅はそれなりに余裕のある広さのため、通行人がいても二人は邪魔にはならない。
 そして二人が並んで覗いている所は、街路樹と街路樹の足元の間に作られた、近所の人たちが自主的に管理している小さな長方形の花壇だった。それぞれの花壇ごとに数種類ずつ、全て合わせれば数えきれないほどたくさんの種類の、色も形も異なる花たちが咲いている。だがリュナンが特に目を奪われたのは、いま二人が目の当たりにしている〈その花園〉だった。
 

矢車菊(2005/05/07)


[藍の空色(2)]

 木と木の間のささやかな空間に咲く春の花たちは、明るい木洩れ日を一身に集めて咲き誇っている。時折、商売に忙しいズィートオーブ市の人々もふと立ち止まり、心の潤いを得ていた。
 黄色や白、濃い桃色はかなり多く、赤や薄い桃色や橙色もそこそこあり、紫も見かける。だが、学院の同級生の二人がいま覗き込んでいる花は蒼に近い薄い藍色で、とても珍しかった。
「ほんとだ、きれいじゃんね」
 サホもすぐに気に入った様子で、目を輝かせ、何輪かの藍色の花を見つめていた。そのままじっと見るだけでは飽きたらず、上から俯瞰したり、下から仰ぎ見て、くきから花への移り変わりを確かめたり、花の中を探るように見つめたりした。やがて少し顔を遠ざけたサホは息を飲み、はっと驚いたような――それでいてほんの少しの嫉妬を含んだような、微妙に深い声で語る。
「なんか、すごく魅惑的な花だね……」
 それを聞いたリュナンも、普段より幾分複雑な声で応えた。
「うん。ねむちゃんも、そう思うよ」

(続く?)
 


  5月 6日− 


[かき混ぜる(4)]

(前回)

「わーっ」
 ほうきが雲に向かっていくと、実際には降りているのに身体はふわりと浮かび上がるような、何度体験しても恐ろしい独特の感覚が襲ってきます。レイベルは自分の身体がどこかに飛んでいってしまうような怖さと、ほんの少し確かに混じっている楽しさを頭のすみっこで感じながら、上半身をかがめてナンナの背中に顔を押し付け、相手の華奢(きゃしゃ)な腰に左腕を回していました。右手はほうきの柄を握りしめ、膝を曲げて身体じゅうを緊張させていましたが、初めて空を飛んだ時に比べるとだいぶ慣れたのでしょう、どうにか目を開けていることはできました。

 視界に広がっていた青空に、勢い良く流れ去ってゆく白い雲の切れ端が混じり始めました。まもなく空は灰色の雲にかすれてきました。それが絵筆で素早く何度も塗りたくるように濃い灰色に移り変わってきたと思うと、今度は慌ただしく薄まります。
「雲の……こう……出……よ!」
 前を向いたまま叫んだナンナの言葉は、星くずみたいに切れ切れになって空に散らばりましたが、レイベルには通じました。ナンナは〈雲の向こうに出るよ〉と言ったのに違いありません。

 心なしか、ほうきの進む速さは緩やかになっていました。レイベルは友達の腰にしがみついていた左腕の力を少し抜いて、周りを見渡す余裕を少しだけ取り戻し、小さくうなずきました。
「うん」
 遙か下、雲の合間に、枯れ草と新芽の混じった淡い緑が見え始めました。降りそうで降らない雲に遮られ、くすんだ色です。
 二人を乗せた魔女のほうきは、ついに雲の大陸を突き破りました。曇り空の下に、春のナルダ村が再び小さく見えました。
「帰ってきたのね」
 ほっと息をつき、レイベルは呟きました。ほうきも止まります。

 けれどもナンナの小休止は、ほんの束の間の出来事でした。
「ここからが、魔女の腕の見せどころだよ☆」
 ナンナは風のように爽やかに軽く、そしてどこかしら優雅に魔法のほうきを操って飛び、前に進みながら浮かび上がります。後ろに尾のような〈光の糸〉を従えて素早く通り過ぎる様は、地上から仰いだならば、まるで夜空の流れ星だったことでしょう。


  5月 5日○ 


[かき混ぜる(3)]

(前回)

 低いところに、まるで大陸か海のように灰色の雲がずっと連なっていて、ナルダ村やその周辺の様子を隠しています。地上は曇り空ですが、この雲の上の世界は澄みきった青空でした。
「よいしょ、と」
 古びたほうきの棒の部分の一番後ろに、レイベルはナンナに渡された綱の切れ端のようなものを堅く結びつけました。余った短い部分は犬の尻尾のように垂れ下がっています。何度か引っ張ってみて、外れないことをきちんと確認すると、レイベルは手の甲で額の汗をぬぐい、前の席のナンナに呼びかけました。
「ナンナちゃん、できたわ」
「ありがとう、レイっち」
 友達がなるべく作業しやすいよう、魔法への集中力を高めてほうきが揺れないように心がけていたナンナは、首半分だけ振り向いてお礼を言いました。それから金の髪の小さな魔女は珍しく真剣な声で、謎めいた不思議な呪文を唱え始めたのです。
「ψκσδξιφ……天(あま)なる恵みよ、まばゆき炎よ、形有る糸となりて交わり、今ここに舞い降りたまえ。サレナドゥール!」

 唱え終わる間際、ナンナが右手をほうきから離して強い輝きを放っている春の太陽に向かって掲げ、手首を一回りさせると、レイベルは気のせいか、青空がきらりと光ったように感じました。
「やったぁ、うまくいったみたいだね」
 自由な風と相性の良いナンナは、十二歳の魔女の卵としては信じられないほど、ほうきで空を飛ぶのが得意です。ほうきを斜め前に少し前進させつつ、新しい魔法の成果を横目で見ます。
 レイベルがほうきに結びつけた短い綱は、魔法の影響か、いつの間にか長く伸びていました。手前は普通の綱の続きに見えますが、しだいに細くなって、しかも金色に輝いてゆきます。
「ナンナちゃん、これは……?」
 レイベルが驚いて訊ねると、ナンナは前を向いて応えます。
「これが光の糸だよ〜。あっち側は熱いから気をつけてね☆」

 その時、上空の冷えた強い風が吹いてきて、見るからに火傷(やけど)しそうな光の糸が飛ばされてきて、ナンナの髪をかすめたから大変です。さすがのナンナも悲鳴をあげて必死に避けようとし、ほうきは左へ右へと慌ただしく不安定に揺れました。
「ひゃあ! 来ないでーっ」
 振り落とされないよう、レイベルはほうきにしがみつきます。
「きゃあーっ、助けて!」

 ひとしきり大騒ぎした後、ナンナは前に進めば〈光の糸〉は尾のように素直についてくることを思い出して、元気を取り戻し、ほうきの飛ぶ速度をあげて雲の大陸へと突入していきました。
「さー、このまま、雲をかき混ぜに行こー!」


  5月 3日− 

  5月 4日△ 


[森に手を振って]

 食事を終えて一息ついている時、あたしは立ち上がった。
「ちょっと行って来るね」
「ああ、わかった」
 ルーグはすぐに返事をしてくれた。お姉ちゃんが首をもたげてあたしを見つめ、タックも見上げた。普段歩いている時は、あたしが一番背が低くてみんなを見上げてるのに、今は正反対。巨人になったような、ちょっと変な感じかな。ケレンスが訊ねた。
「どこ行くんだ?」
「ちょっとそこまで。すぐ帰ってくるから」
 あたしが応えると、ケレンスは〈ふーん〉と応えた。トイレと思われたのかも知れないけど、それ以上何も言われなかった。

 あたしはただ、お散歩してみたかっただけ。
 この森の中で、たくさんの緑に囲まれて――。
 いつもはみんなで歩いてるけど、たまには一人で歩いてみたくなって。それであたしは小さな広場を出て、去年の秋の落ち葉が土と同化し始めた細い尾根の道を踏みしめ、歩き出した。
 

2005/05/03


 それは光と影の織りなす、生きた芸術だった。
 見上げれば、緑色の葉がいっぱいに手を伸ばしている。その合間から青空が覗いていて、ちらちらときらめくまばゆい輝きは矢のようにあたしの目を射た。時折、木洩れ日はすごく森の奥まで射し込む。故郷のモニモニ半島の複雑な入り江のように。
 あたしの色んな〈想い〉はそよぐ風と溶け合って、爽やかに速やかに流れる。すると明るい緑の葉っぱが手を振ってくれた。
 すべてが調和していて、そこにあたしが加わっても、新しい仲間として自然に迎えてくれる。あたしは気持ちが楽になり、肩の力が抜けて、ほおは自然と緩んでくる。それとは逆に、歩く速さはゆっくりになってくる――でも、足元には気を付けないとね。

 あたしは立ち止まり、ちょっと背伸びをして、葉っぱたちに大きく手を振った。するとまた風が吹いて、あたしの前髪をさらさら揺らし、お花も同じように撫でて、葉っぱも手を振り返してくれた。
 それを見上げて一人で笑ってるあたしって、ちょっと変わってるのかなぁ。でもね、胸を開いて思いきり深呼吸してみると、そんなつまらない疑問は、大地に吸い込まれて消えちゃうんだ。
「ふぅ〜っ、すぅーっ」
 森の命が混じり合った、優しく落ち着く匂いが充ちている。ちょっと薄暗いところが好きなシダ植物も、きのこも、木の枝を覆っている苔も――みんな、それぞれの居場所があって、みんな要らないものはないんだよね。そう思うと、すごく安心するんだ。
 あたしもきっと――。

「おーい、リーン、そろそろ行くぜぇ」
 ケレンスがあたしを呼ぶ声が聞こえてきた。あたしの中のいたずら心がちょっと疼いて、辺りを見回し、幹の後ろに隠れんぼ。
 草を踏む音にも気を付けて、息を潜めて待ってる。ケレンスの声と靴音が近づいてきて、もっと近づいて――追い越された。
 ちょっとだけドキドキしてたあたしは、慎重な動作で森の小道に戻った。そしてちょっと控えめに、相手の名前を呼んでみる。
「ケーレンスーっ」

「……あ?」
 ケレンスは気づいてすぐ振り向き、面倒そうな足取りで戻ってくる。細めた瞳をまぶしげに何度も瞬きさせ、ちょっと変な感じ。
 そして立ち止まり、背の低いあたしを見下ろして。少し微妙な間を空けてから、ちょっと不思議な口調でこんなことを言った。
「おっ、何だよ……草の一部かと思ったぜ」
「うーん、そうかも知れないね」
 あたしは微笑んで答えた。あたしの髪と瞳は、草を思わせる薄緑色なんだ。そういう縁があるからかは分からないけど、小さい頃から草木は大好き。もちろん緑がまぶしい春の季節もね。

 ケレンスは急に歩き出した。数歩進んでから、立ち止まったままのあたしの方を振り返り、わざとぶっきらぼうに呼びかける。
「おい、来ねぇなら置いてくぞ」
「いま行く」
 あたしはそう答えておいて、ちょっと斜め後ろを見た。枝の上の方で、新しい光と生まれたての緑の葉っぱが戯れている。
「またね」
 小さく呟いて二、三回、手を振ったら――また風が吹いた。
 今度は葉っぱだけじゃなくて、細い枝も、地面に映っている細かな影も手を振ってくれた。足元の小さなお花も顔を揺らした。
(ありがとう!)
 あたしは心の底から嬉しくなって、足取り軽く、森の細い小道を歩き出す。向こうにお姉ちゃんたちの姿が見えてきた――。

(おわり)
 


  5月 2日○ 


[かき混ぜる(2)]

(前回)

 灰色の雲が迫り、冷たく強い風がぶつかってきます。身体は左右にぐらぐらと揺れ、ふわりと浮き上がりそうになりました。
「ひゃぁあーっ」
 レイベルは悲鳴をあげましたが、その中には怖さだけでなく、喜びや楽しさ、嬉しい気持ちも確かに混じっていました。右手で前のナンナの肩をつかみ、反対の手で椅子代わりの棒を握りしめています。それは――古びた不思議な魔女のほうきでした。
 魔女の卵のナンナはそれほど速くほうきを飛ばしているわけではありませんが、何も遮るもののない天の近くを鳥のように渡れば、頬には冷えた風がぶつかり、レイベルの黒い前髪は逆立ちました。真正面を見ると目が痛く、口は渇くので、ほうきを握る左手に力を込めて少しうつむきがちに斜め上を仰ぎ見ていました。厚手のズボンの裾は風で激しくはためいています。

「さあ、あの雲に行くよ〜っ☆」
 ほうきの前側に座っているナンナは元気に腕を振り上げました――が、そのとたん魔法への集中力が乱れ、バランスが崩れました。あっという間に、ほうきは横向きになりました。
「きゃあーっ」
 レイベルは固く眼を閉じました。今度の悲鳴は本物です。
「う、ぐ、ぐ、ぐ」
 ナンナは歯を食いしばり、何とか踏ん張って、曇り空の真ん中でほうきの傾きを少しずつ戻していきます。ほとんど水平に戻る頃、魔女は額にびっしょり汗をかき、紅い顔になっていました。
 さすがのナンナも疲れたのか、安堵の吐息をつきました。
「ふぅ〜。よ〜かった〜」
 そしてレイベルは、おそるおそる、まぶたを開いていきます。

 二ヶ月ほど前は、野原や丘や尾根や谷、河の岸辺や湖のほとり、畑や牧場、村の通りや学舎やお店や家々の屋根、庭や井戸の石や枯れ草までが雪に覆われていた北国のナルダ村の周辺ですが、今や山の日陰にほんのわずか残るのみです。
 それと代わるようにして現れた、野原や川辺で見られるようになった新しい命の芽吹きの緑色に静かな感銘を覚えていたレイベルは――前のナンナの呼びかけでふっと我に返りました。
「さあレイっち、これから穴をあけるからね」
「えっ、どこに?」
 レイベルが驚いて訊ねると、ナンナはじわりじわりと気を付けながら片手を上げて、空の高みのより深い方を指さしました。

 その瞬間です。いたずら好きな強い風が一吹きして、天の小舟の魔女のほうきは一気に傾きました。レイベルはまた悲鳴をあげ、運転手のナンナは懸命にほうきの傾きを直すのでした。
「きゃあぁ!」
「ひぇ〜!」


  5月 1日− 


[かき混ぜる(1)]

 陶器の長い瓶には、今朝、牧場で絞った牛の乳が入っています。それを持ち上げて傾けたのは、十二歳のレイベルでした。
「よいしょと……」
 注ぎ口に白い液体が満ち、最高潮に高まった次の瞬間――限りなく細い雪色の筋が生まれ、ささやかで軽やかな音を響かせて、温めたお茶に注がれていきました。紅いような茶色のような、この辺りで採れる独特のお茶をあらかじめ木の棒でかき混ぜて置いたので、注がれた牛の乳はすぐに流され、幾重にも不思議な楕円を描き、重なり、交わり、広がってゆくのでした。
「面白ーい」
 感心して見つめていたのは同級生のナンナでした。村長の娘であるレイベルは春の夜のような黒髪で、穏やかで知的異な瞳も同じ色でしたが、実は魔女の卵であるナンナは金の髪です。
「そうだ、レイっち、あっちもかき混ぜよーよ☆」
 そう言ったナンナは、レイベルの家の窓の外に広がっている、さっきから降りそうで降らない中途半端な灰色の曇り空を指さします。小柄な身体の背筋を伸ばし、人差し指をぴんと張って。




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