2007年 5月

 
前月 幻想断片 次月

2007年 5月の幻想断片です。

曜日

気分

 

×



  5月31日− 


(休載)

2007/05/31 ロシアの大河
 


  5月30日− 


(休載)

2007/05/30 ジュネーヴの大噴水
 


  5月29日− 


(休載)

2007/05/29 ユングフラウヨッホ「氷の宮殿」
 


  5月28日− 


(休載)

2007/05/28 ルツェルン「カペル橋」
 


  5月27日− 


(休載)

2007/05/27 ノイシュヴァンシュタイン城
 


  5月26日− 


(休載)

2007/05/26 ローテンブルク「プレーンライン」
 


  5月25日− 


(休載)

2007/05/25 アウフシェーンブルク城
 


  5月24日− 


雪野原を越えて
風はどこまでも行く
そこに大空がある限り

2007/05/24 シベリア越えて欧州へ
 


  5月23日− 


 おおまかに言えば正確に
 細かく言えば不正確に

 今年も同じ花が咲く
 季節の花の時計はまわる


2007/05/21 出番を待つ紫陽花
 


  5月22日− 


[夕暮れに、あの部屋で(1)]

 外で橙色の夕陽の光が強まれば強まるほど、部屋の中は透明感のある淡い青色に染まってきていた。珊瑚礁の遠浅の海の底から、水の向こうの青空を見上げたような感じだろうか。
「どうぞ」
 彼女は上品に微笑み、水を入れた色のない細長いグラスをテーブルに置いた。この部屋の中ではとても薄い青に見える。
 かたん、と軽い音が鳴った。

(続く?)
 


  5月21日− 


 あの森の影、
 ほんとに全部、木々の陰なの?

 調べてみたら
 妖精の影も混じってるかもね

2007/05/21
2007/05/22
 


  5月20日△ 


[旅人の唄]

 朝日が深い影を映し
 濃い緑の山脈は近い
 
 束の間の町を去り行く時
 別離は心の奥に刻まれる
 
 長き旅の終わりは
 悲しむべきでない
 
 過日の幸福が有り
 今日の追憶が残る


2007/05/20
 


  5月19日− 


 烈しい雨が通り過ぎ、やがて曇り空から太陽が顔を出した。
 強い光が照り付けるとき、草の上に降り立った雫たちはいっせいに羽ばたく。生まれ故郷である大空の彼方に向かって。
「慌ただしいねえ」
「そうだね。また来たいね」
 そんな話を交わしながら。

 町にはしばらく微細な霧がちりばめられていたが、それもすっかり溶けてしまうと、空は久しぶりに青く冴え渡ったのだった。


2007/05/19 雨の後の夕暮れ
 


  5月18日− 


[逃げ出す前に、逃げ出したもの(1)]

「うーん……」
 難しい顔して、机に向かって考えてる。後回しにした宿題は、想像以上に難しい。電気スタンドが慌しくチカチカ光っている。
 私は腕組みし、首をかしげ、眉を寄せて考えた。
「む〜むむむ」
 文章を読み返す。無意味にシャーペンの芯を出し、引っ込める。その間も、外ではフクロウが、苦労もせずに鳴いている。
「あ〜あ、逃げ出したいなぁ」
 頬杖をつき、眉間に皺を寄せ、もっと眉をひそめた。

 その時、何の前触れもなく、突如。
 机の上に、黒くて細長いものが二つ落ちて来た。
(え、何、どっから来たの?)
 それを見つめて、頭をぐるぐる巡らせる。
 何、これ――腕に鳥肌が立つ。

 次の瞬間、その二つの黒い物体がわさわさと動いた。
 あたしは叫んだ!
「ムカデ!」

(続く?)
 


  5月17日− 


[翡翠草の森]

「これが翡翠草か……」
 そう呟いてから、私はふと立ち止まり、天を仰いだ。
 その森は青緑色だった。斜めに細く差し込む光が、まるで池の水底のように辺りの景色をゆったり浮かび上がらせている。また、木々に絡みつき、枝葉を伸ばす草を照らし出していた。
 草は翡翠色をしており、それが森を青緑に飾っていた。



2007/05/15 加工
 


  5月16日− 


[ラーエの村(1)]

 空は青く、薄いちぎれ雲は手に取るほどに近い。なだらかな緑の牧草地には、踏み馴らされた細い道が続いている。
 空気は澄んでいて涼しく、かなり薄い。雪の残る傾斜の急な山から流れてくるせせらぎは清らかだが、とても冷たい。

 メラロール王国の中程にある草原の町、ラーヌ三大侯都の筆頭であるセラーヌ町からラーヌ河の中流を街道沿いにずっと遡ると、避暑地として名を馳せる山奥のサミス村に着く。その途中、ラーヌ河から分岐して東南東へ向かう支流のレネマ河があり、こちらにも細い街道が寄り添っている。
 いつしか道は山がちになる。小さな峠を越えて盆地に出るごとに集落がある。中央山脈にぐっと近づき、森を抜け、氷河に刻まれたU字の谷間を横目に進む隘路を過ぎると、割と広い盆地が見えてくる。そこが移牧で栄える高地の村、ラーエの村だ。

(続く?)
 


  5月15日− 


[太陽が眠るとき]

 空を見ながら駆けてきて、ようやく広いところまで辿り着いた。あたしは立ち止まり、落胆とも感嘆ともつかない声をあげた。
「あ〜っ」
 夕日には間に合ったような、間に合わなかったような。
 空の低いほうには雲の層ができていて、夕陽は下半分が隠れていた。強く輝いている上半分も、急速に沈みつつあった。
 もっと良い場所から見ようとする間もなく、夕陽は消えた。

 雲に隠れた夕陽――。
 それは、太陽がウインクしているようだった。
 そのまま彼女は目を閉じて、夜の眠りについたんだ。

「また今度ね」
 夕焼けの名残を横目に、涼しい風を浴びて歩き出した。


2007/05/15
 


  5月14日− 


 白い壁の手前で
 薄桃色の薔薇が咲く
 それは確かに一つの銀河だ

 覗き込む私の時間が
 鼓動の速さが
 少しだけゆったりとする


2007/05/14
 


  5月13日○ 


 竜の尻尾のような雲が
 明日の方を指さしていたよ


2007/05/13
 


  5月12日− 


 柔らかな空のかなたに
 今日の太陽が沈んでゆく

 色を失った町は輪郭となり
 黒い彫刻となって美しい


2007/05/12
 


  5月11日△ 


 夜の中で
 木々は風にあおられて
 激しく枝を振り乱していた

 怖いくらいに

 あの中に足を踏み入れたら
 連れて行かれてしまいそう
 どこか別の世界へ――


2007/05/11
 


  5月10日− 


[気まぐれな時(1)]

 ほうきに乗って風を切り、湖面の近くを速く飛んでゆく――何かに追われるかのように。ほうきに乗っていたのは二人の少女で、前にいる金の髪の子がナンナ、後ろの黒髪がレイベルだ。
 その時、濃い灰色の空から硬く大きな雹(ひょう)がパラパラと降って来たので、二人はたまらず顔を下げて悲鳴をあげた。
「いててっ」
「ひゃあっ」
 深い針葉樹の森にひっそりとたたずむ細長い湖は、重たそうな灰色の空を写して深く考え込むかのように沈んでいた。湖の周りに道はない。水辺近くまで木々の迫っている原初の森だ。

 そのうち二人の乗ったほうきは湖を渡り切り、森の入口に降下した。姿勢を低くして空飛ぶほうきを操っていたナンナが、やれやれ、というような口調で叫び、両足を伸ばして着地した。
「ひゃ〜っ」
 左腕をナンナの腰に回して身体を近づけ、伸ばした右手で二人の頭を護っていたレイベルも、地面にすとんと足を下ろす。
「ナンナちゃん、大丈夫だった?」
 すかさず心配そうに問うた少し背の高いレイベルに向かって、魔法使いの卵のナンナは飛翔魔法の疲れも見せずに笑った。
「大丈夫だよ☆」

(続く?)
 


  5月 9日− 


[ウピの休日(1)]

「ふっふ〜ん」
 鼻唄を歌いながら、ウピはご機嫌だった。南国の大空は強い光で空を白く照らし、ミザリア市街はからっとした暑さだった。
「けっこう照ってるなー」
 汗ばむ額に手を当てて、小柄な彼女はやや足早に歩いてゆく。淡い金色の後ろ髪が潮風に揺れ、白を基調としたフレアースカートの裾がはためく。大きな花の刺繍の入った蜂蜜色の七部袖のシャツと、南国の草を使ったサンダルを履いている。
 白い石造りの建物の影は短く、夏が近いことを知らせている。すれ違う人々の表情は明るく、話は弾んでいるようだった。

 ウピは一つの店の前で足を止め、良く通る声で呼びかける。
「おやっさん、毎度ぉ!」

(続く?)
 


  5月 8日− 


[黄昏の町(1)]

「お姉さま。この時間、この風景を好んでいるの?」
 少年リーノが、穏やかで丁寧ではあるが、どこか冷たいような口調で言う。彼はゆったりした裾の長い上着を羽織っていた。
「……太陽は沈み、霞んだ空にはまだ赤みが残っています」
 好き嫌いでは答えず、そう呟いたのは姉のリリアだった。

 マホル高原の中でも山岳地帯に近いマホジール町では、草月(五月)といえども朝晩はかなり冷え込む。リリアも暖かい恰好をしていた。二人とも、やたらと装飾の多い、古い時代を感じさせる服だ。そこにはマホイシュタット家の紋章が入っていた。

 姉のリリアは十五歳、弟のリーノは十二歳。二人はマホジール帝国に君臨するマホイシュタット家の一員で、リリアは皇女、リーノは皇子だ。姉妹は少し距離を空けて、古びた石造りの城の高い尖塔の一つから、山あいの細い盆地にある町を見下ろしていた。沈んだ夕日の名残の中で、町の色はくすんでいた。

(続く?)
 


  5月 7日○ 


[空の海]

 なだらかな丘に、目印であるかのように一本の樹が立っている。丈の低い草は日暮れ前の涼しい風に揺れていた。家路をたどる鳥たちの声が響き、地面に翼を広げた影を映している。
「海、懐かしいなぁ」
 軽く膝をかかえて草の原っぱに座っているリンローナが目を細め、つぶやいた。艶やかな頬は夕日の色に染まっている。
 彼女が優しい薄緑色の瞳で捉えているのは、山の上にかかる雲の群れだった。それは幾重にも重なり、まるで海の波を思わせた。
「そうだな……」
 その横で、樹の幹に伸ばした右手を当てて立っているのは、リンローナの仲間のケレンスだ。彼の金色の髪が夕日を浴びて、ますます光り輝いていた。
 この森に囲まれた小さな村で、山の端に沈みゆく夕日の速さを感じながら、ケレンスは北国のミグリ町の蒼く澄んだ海を、リンローナは温暖なモニモニ半島の翠の海を思い出していた。
「こんな山の中なのに、ミザリア海の潮の香りが、ほんの少しだけ蘇る感じがするよ……不思議だね」
 ケレンスはゆっくりと目を閉じた。風を捉らえる聴覚が、匂いを求める嗅覚が、やや強まる。何も見えなくても、夕日は暖かく明るい。
 再び目を開いたケレンスは、ふーっと長い鼻息を出して、表情を緩めた。
「ああ。そうかも知んねぇなあー」
 夕日は間もなく西の山に触れるところだった。白波のような雲はますます赤くなっていた。そして海原を彷彿とさせる黄昏の空は、大きな一輪の花となって、地上の出来事を遙かな高みから見守っていた。
 


  5月 6日− 


 曇りや雨なら灰色の川
 晴れた日には澄んだ青
 夕暮れになると朱い川
 
 水は空の鏡なんだね


2007/05/03
 


  5月 5日− 


(休載)
 


  5月 4日− 


[うたたね/うたかた]

「気持ちいいのだっ……」
 村はずれに立っている落葉樹の影の中で、湿度はちょうど良く保たれていた。頭の後ろで組んだ腕を枕に、ファルナは寝そべっていた。木洩れ日が強くきらきらと瞬き、白い蝶がふわりふわりと目の前を通り過ぎた。時折、東の山脈の方から吹いてくる風は涼しいけれど、全体的には暑くも寒くもなかった。
 草木の匂いがごく近い。たまに花の香りも混じる。

「木の葉と、青空を見下ろして……」
 彼女のまぶたが重くなるのに、長い時間は必要なかった。

〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜

「お姉ちゃーん、みんな森へ行くって!」
 妹のシルキアが捜しに来た。落葉樹のそばで寝転がっている姉の姿を見つけると、近づき、声をかけようとする。
「お姉ちゃ……あっ」

 ファルナはすっかり夢の中だった。小さな寝息を立てている。
「しょうがないなぁ。もうちょっとほっとこう」
 シルキアは微笑み、村の友達の方へ駆けだしていった。
 


  5月 3日− 


 ちぎれ雲が風に飛ばされて、青い空に太陽が再び姿を現すと、田んぼの蛙たちはいっせいに鳴き始めた。一匹ごとに響きや鳴き方は異なる。
 山を彩る藤は麗しく上品な紫の花を咲かせている。黄緑の新緑は明るい。うぐいすも、それぞれの声色、高さ、歌い方で、それぞれの音楽を生み出している。
 汗ばむほどの陽気だ。強い光は地面に映る影を色濃くする。

 爽やかな初夏が居る――いま、この時。
 この瞬間にも。


2007/05/03 飯給駅
 


  5月 2日− 


[七浦(1)]

 270度。あるいは1.5Πラジアン。

 崖に沿って、アスファルトの道路は270度の急カーブを描いている。小さな岬と岬の間に取り残されたかのような白い砂浜と、エメラルドグリーンの浅い海が幻想的だ。やっとたどり着いた。

 ここは、七浦(ななうら)。
 その名を教えてくれたのは擦り切れた地図だった。
 七番目の浦という意味ではない。その周辺を見ていくと、六浦(むつうら)と二浦(ふたうら)という記述があるからだ。番号順に並んでいるわけではない――とすると、何だろう。

 好奇心を掻き立てられて、現地まで来てしまった。乗ってきた車はだいぶ前の駐車スペースに停めて、走り去る車に注意しながら道路の隅を歩く。手すりを乗り凝れば切り立った崖だ。
 潮風が鼻をつく。ふとした時、通行する車がいなくなると、辺りはかすかな波音につつまれた。太陽はだいぶ西の空に傾き、空は既に黄色くなり始めていて、まぶしかった。海は日本海なので、この天気ならやがては素晴らしい夕陽が望めるだろう。
 道の先には岬を貫くトンネルが見える。地図によると、あの岬をくぐれば七浦のはずだ。車にヒヤヒヤしながらトンネルを通り、坂を下る。出口の明かりは近い。光が満ちあふれ、降り注ぐ。
 目がしだいに馴れてくる。こうして七浦付近に着いた。

(続く?)
 


  5月 1日△ 


[(しずく)]

 藍色の柔らかい雨が、厳かに降りしきる。新緑の森の傘の下で、それはほとんど霧雨だ。
 というわけで、深い藍色のもやが微かな風に乗って薄暗い森の中を漂っている。その微細な粒の移動は、淡く広がっている黎明の光がささやかに照らし出す。
 霧雨は葉や枝を濡らして、木や草の匂いをいっそう強める。木の葉はほんの僅かずつ水を溜め込み、やがて首を傾げる。こうして、時たま藍色の霧のなかに、深緑の(しずく)がゆらりと零れ落ちる。
 朝はまだ完全には目を覚ましていない。森もまどろんでいる。
 鳥たちが喋りだすと、曙の時は急激に夢の中へ遠ざかった。霧が晴れてきて、森を照らす光は強まった。踏み締めた雑草からは、強い意思が感じられた。
 シャツはびっしょりと湿っていたが、それは透き通った水で、深い藍色はすっかり消えていた。艶やかな緑色はやや明度を増し、木々の葉や草に残っていた。
 唐突に霧が破け、急に青空が覗いた。朝が来たのだった。
 




前月 幻想断片 次月